artscapeレビュー

明楽和記「PLAYGROUND」

2019年07月15日号

会期:2019/06/14~2019/06/30

Gallery PARC[京都府]

「白いキャンバス」の空間的拡張としてのホワイトキューブに、カラフルに塗装された既製品や「単色」に還元した他者の作品を配置する行為を「絵画」と見なすことで、「絵画」の概念的拡張を試みてきた明楽和記。ホワイトキューブ内をスーパーボールが飛び交う軌跡をストロークと見なす、配置作品のセレクトをレンタル会社に任せるなど、そこには観客を身体的に巻き込む遊戯性やコントロールを手放す他律性が付随してきた。


「PLAYGROUND」と名付けられた本展では、公園の遊具を模した彫刻、動物の形をした構築物、アイスクリームが展示空間に持ち込まれ、ギャラリーが遊戯的な空間に変貌した。これまでの作品展開の延長線上に位置づけられる作品と、「絵画」を別の軸から問い直す新たな試みが混在し、全体として過渡期の印象を受けた。赤、黄、ピンク、緑、ブルーに塗り分けられた、公園の遊具を思わせる《sculpture》は、「空間に色を置く」行為を絵画と見なすこれまでの制作の延長線上にありつつ、「彫刻」へと反転させる。また、鑑賞者が6色のアイスクリームから好きな2色を選んで白いキャンバスの上に置き、アイスが溶けていくプロセスを「抽象絵画」とする《Melting Painting》は、「色の選択と配置」「他者の判断に委ねる」点ではこれまでの作品と共通するが、「白いキャンバス」が実体的存在として出現(もしくは回帰)したという点では、大きく逸脱する。それは、「絵画」というシステムを文字通り「融解させる」のか、あるいは偶然性や他律性の導入を装いつつ、システムの強化に寄与してしまうのか。両義的な危うさを孕む。



[撮影:麥生田兵吾 写真提供: Gallery PARC]


「実体的存在としての絵画」の出現は、キャンバスや木材の端材を組み合わせ、サイの形の立体物をつくりあげた《変形絵画》につながっていく。皮膚のように、木材の骨格を覆うキャンバスやパネル貼りされていないキャンバスは、具象の静物画、抽象画、心象風景的なイメージなど、複数の異なる画風が混在する。これらは、明楽自身が描いたものではなく、知り合いから譲り受けたものやリサイクルショップで購入したものだという。「不要」と判断された「絵画」たちが、骨格(木材)と皮膚(キャンバス)という物理的構造を露わにしつつ、廃墟か残骸のような生き物の姿を借りて亡霊的に出現する。封印してきた「絵画」への愛憎のような感情が一気に噴出し、コンセプト先行のこれまでの作品の裏返しのような衝動性を感じさせ、「絵画」をめぐる明楽の思考実験の今後の分岐点となるかもしれない。



[撮影:麥生田兵吾 写真提供: Gallery PARC]


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