artscapeレビュー
古澤邸
2019年07月15日号
[東京都]
研究室のゼミ旅行という機会を使い、気になっていた古澤大輔さんの自邸を見学した。道を曲がって住宅が視界に入ると一瞬、とても大きく感じる。これは『住宅特集』2019年5月号の表紙も飾っているが、とくに梁がズレており、スラブの数が実際よりも多いと錯覚することによって、住宅というよりはビルのように見えてしまう。塔の家ならぬ、スキップ・フロア風のビルの家なのか? あるいは、ビルをリノベーションした住宅なのか?
上下の水平ラインに挟まれた横長のプロポーションはビルを想起させるのだが、そこに人が立つと大きさの感覚が狂い、スケール感がずらされる。また両側の建物と比較すると、ビルのミニチュアのようだ。なぜ、こうした現象が起きるのか。古澤は十字に配置された4本の柱を中央に据え、床のスラブと梁を遊離させるという実験を試みており、透明性が高く、そのデザインが外からも確認できるために、階数が実際よりも多く見えるからだ。つまり、基本的には四層であり、しかも室内は階高を少し抑え、スケールを調整している。
室内に入ると、二階から上は基本的に壁がなく、また中央の階段まわりに吹き抜けが随所に発生しており(とくに斜めの抜けが多い)、全体がゆるやかにつながっている。印象的なのは、いわゆる壁と違う空間の分節が未曾有の体験をもたらすこと。すなわち、頭上ではなく、目線の高さを浮遊している太い梁が、完全に空間を切り分けず、上下をかき取られた壁、もしくは大きな手すりのように存在している。つまり、梁の向こうがよく見えるが、そこへのアクセスはおしとどめる。また梁の上がちょっとしたモノを置く場所としても使われていた。建築の基本的な構成を変えることで、新しい空間の可能性を切り開くことに成功している。
もちろん、自邸ゆえの思い切りのよさはあるが、これは住宅に限定された手法ではないだろう。建物の前面で目立つバルコニーは、すべてを揃えず、それぞれに異なる表情をもち、躯体に対し、リノベーション的に付加したかのようだ。古澤は設計にあたっては、当初案を転用するイメージでのぞんだらしいが、新築でありながらリノベーション的な性格を備え、ビルのように感じられたのも、そのせいかもしれない。
2019/06/08(土)(五十嵐太郎)