artscapeレビュー
国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展
2019年07月15日号
会期:2019/06/11~2019/09/23
国立西洋美術館[東京都]
国立西洋美術館で「松方コレクション展」て、珍しくもなんともないじゃん。と思ったら大間違い。現在の松方コレクションは、かつて松方幸次郎が集めた全コレクションのごく一部にすぎないのだ。今回は開館60周年記念ということで、その幻の全貌に迫ろうというもの。
簡略に言うと、松方コレクションは川崎造船所の社長だった松方幸次郎が、第一次世界大戦で莫大な利益を得、そのお金を使ってヨーロッパで買い集めた全1万点を超す美術コレクションのこと。そのうち日本に輸入した1万点に及ぶ(浮世絵8千点を含む)作品は、大戦後の不況に関東大震災も重なって散逸。これを「旧松方コレクション」という。一方、ロンドンに残した約900点(従来300点余りといわれていたが、版画1点1点を数えれば900点以上)は倉庫の火事で焼失し、パリの約400点のみが残ったものの、紆余曲折を経て第二次大戦後フランス政府に没収されてしまう。この約400点がサンフランシスコ講和条約締結後、美術館を建てるという条件つきで返還されることになり(フランス側は「寄贈」を主張したため「寄贈返還」という曖昧な表現となった)、これを受け入れる国立西洋美術館が建てられたというわけ。しかも重要作品はフランス政府に抜かれたため、引き渡されたのは375点だった。二度の大戦に振り回された激動の20世紀前半を象徴するコレクションといえる。
同展では、この未曾有のコレクションがいかに形成され、散逸していったかを、収集したロンドンとパリの画廊や協力者、二度の大戦との関わりなど8章に分けてたどっている。出品は、モネの《舟遊び》(1887)やロダンの彫刻群など開館当初の「松方コレクション」、マネ《自画像》など散逸した「旧松方コレクション」、クリヴェッリ《聖アウグスティヌス》(1487/88頃)など「旧コレクション」から買い戻した作品、ゴッホ《アルルの寝室》(1889)など寄贈返還時に抜かれた作品、そして近年フランスで再発見されて初公開となったモネ《睡蓮、柳の反映》(1916)まで、150点以上に及ぶ。
ところで、松方コレクションといえば印象派のイメージが強いが、意外にも海戦画をはじめとする戦争画が相当数あることに驚いた。でも考えてみれば、松方は造船所の社長だし、第一次大戦中にヨーロッパを訪れたし、最初に買った作品がのちに最大の協力者となるブラングィンの造船所の絵だったから、意外でもなんでもなく、むしろ当然のなりゆきだったのかもしれない。あまり常設展で見た覚えはないけど。
2019/06/21(金)(村田真)