artscapeレビュー
屋根裏ハイツ B2F 演劇公演『寝床』
2019年11月01日号
会期:2019/06/14~2019/06/16
SCOOL[東京都]
屋根裏ハイツは中村大地が演出を務める演劇カンパニー。2013年の設立以降、仙台を拠点に活動してきたが、現在は活動の中心を東京に移している。利賀演劇人コンクール2019では『桜の園』の上演で中村が優秀演出家賞一席を受賞しており、名実ともに若手注目カンパニーのひとつとなっている。
『寝床』は同性カップルの内見、引きこもりがちらしい娘とその母の朝のやりとり、孤独死したらしき人物の部屋を清掃する業者、部屋を退去する直前の老夫婦の様子を描いた四つの場面で構成されている。
物語上は直接の関係はないと思われる四つの場面だが、いくつかの仕掛けによってゆるやかにつながってはいる。ひとつはすべての場面が同じ3人ないし2人の俳優(村岡佳奈、渡邉時生、安藤歩)によって演じられるということ。場面の切り替わりも明示されないため、観客の多くは場面が切り替わってからしばらくしてようやく、演じられているのが先ほどまでとは異なる場面であることに気づいたのではないだろうか。異なる場面で演じられる異なるはずの人物は、しかし地続きに演じられる。
地続きなのは俳優だけではない。会場であるSCOOLという雑居ビルの一室もまた、舞台美術などで覆われることなく、むき出しのまま(当然のことだが)つねにそこにある。いずれの場面も俳優と公演会場という同じ現実をベースとしてつくられている。
各場面の設定にも共通点を見出すことができるだろう。同性カップル、引きこもり、孤独死した人物と特殊清掃業者、記憶の覚束ない老人。彼らはいずれも、現在の日本においては残念ながら周縁的な地位に置かれている人々だということができる。そしてタイトルが暗示する孤独死のモチーフ。カップルを案内する不動産管理会社の人間はそこが事故物件であることを告げ、体液の流れ出す夢を見た娘はそのまま孤独死した人物として業者によって搬出されていく。最後の場面にこそ死のモチーフは登場しないものの、老人がもっとも死に近いことは確かであり、彼らが去った舞台は空っぽのまま幕を閉じる。通底する孤独と死の気配。
だがもちろん、屋根裏ハイツは周縁に置かれた人々をひとまとめに扱っているわけではない。彼らはそれぞれに違った個人であり、それぞれに異なる悩みや希望を抱えているだろう。その違いを踏まえてなお、そこにないはずの/あるかもしれないつながりを仮構してみせるのは、彼らがそこにこそ演劇的想像力の可能性を見ているからなのではないだろうか。あるいはそれは単に、ここで描かれる世界もまた、私が生きるそれと同じ世界なのだという身も蓋もない事実を突きつけているだけのことなのかもしれないが。屋根裏ハイツの次回公演『私有地』は11月28日(木)から、同じくSCOOLで上演される。
屋根裏ハイツ:https://yaneuraheights.wixsite.com/home
2019/06/16(山﨑健太)