2019年11月01日号
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artscapeレビュー

トマス・ファルカス──ブラジルを見つめた近代的な眼差し

2019年11月01日号

会期:2019/10/04~2019/10/31

駐日ブラジル大使館[東京都]

トマス・ファルカス(Thomaz Farkas, 1924-2011)は、ブラジルの近代写真を代表する写真家のひとりである。ハンガリー・ブダペストで生まれ、幼い頃にブラジル・サンパウロに移った彼は、8歳の時に父親からカメラを与えられて撮影を開始し、18歳で当時の最も先鋭的な写真家たちが所属する団体だったバンデイランテ写真・映画クラブ(FCCB)に参加して、ブラジルにおける近代写真形成の一翼を担った。戦後、1948年にアメリカを訪れ、ニューヨーク近代美術館の写真部門を統括していたエドワード・スタイケンや写真家のエドワード・ウェストンの知遇を得て、さらにその写真のスタイルを磨き上げていった。1960年代以降は、ドキュメンタリー写真への傾倒を強め、「サンバ」、「サッカー」、「国内移住」、「カンガッソ(地方盗賊団)」の4部作を発表している。

今回、東京・北青山の駐日ブラジル大使館で開催された個展には、1940〜60年代の彼の代表作20点余りが展示されていた。それらを見ると、スタイケン、ウェストン、さらにポール・ストランドなどがアメリカで確立した近代写真の原理が、いかに強い浸透力を備えていたのかがよくわかる。ネガに手を加えない「ストレート・プリント」、レンズの描写力を活かしあくまでも鮮鋭なピントにこだわる姿勢、被写体のフォルムを造形的に処理していく画面構成などは、第二次世界大戦以後の写真表現のスタンダードとして、世界中の写真家たちに影響を与えていった。ファルカスの作風は、アメリカ・シカゴから1953年に日本に来た石元泰博にとても近い。そして石元と同様に、ファルカスも1960年代以降は近代写真の呪縛から徐々に脱して、それぞれの風土に根ざした写真のあり方を模索するようになっていくのだ。

今回は会場の関係で出品点数が少なく、彼の写真世界の全体像を把握することはできなかった。同時代のブラジルの写真家たちの作品もあわせて見ることができるような、より大きな規模の写真展を期待したいものだ。

2019/10/08(火)(飯沢耕太郎)

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