artscapeレビュー

不思議の国のアリス展

2019年11月01日号

会期:2019/09/21~2019/11/17

そごう美術館[神奈川県]

19世紀にイギリスで書かれた『不思議の国のアリス』は、現在170以上の言語に訳されている世界的ベストセラー。作者のルイス・キャロルは、まさか日本語やスワヒリ語に訳されるなどとは思ってもみなかったに違いない。英語でしか通用しない言葉遊びや、ヴィクトリア朝の文化を知らなければおもしろさも半減するはずなのに、なぜ世界中でこんなに人気を呼んだのか不思議な気もするが、たぶんアリスの持っているナンセンス(高橋康也風にいえばノンセンス)は、そんな文化の違いを超えたグローバルなものだからかもしれない。

一方、言語や文化の違いを超えてアリスのイメージを広めるのに大きな役割を果たしたのが、ジョン・テニエルの挿絵だろう。そのイメージがあまりにハマってしまったため、アリスといえばテニエルの挿絵を思い出すほど、物語より挿絵のほうが有名になってしまった。今回もアーサー・ラッカムはじめテニエル以外の挿絵や、現代アーティストの描いたアリスの絵も出ているが、どこかテニエルのイメージを引きずっているか、逆にテニエルに似ていないものはアリスらしくないと思えてしまうのだ。これは幸なのか不幸なのか。テニエルのおかげでアリスの物語は世界中で親しまれるようになった反面、テニエルのせいでアリスのイメージが固定化してしまったとも言えるのだから。同展にはダリ、シュヴァンクマイエル、草間彌生らの作品も出ているが、彼らの強烈な個性が前面に出てしまい、アリスのナンセンスぶりが視覚化しきれていない。

2019/09/19(木)(村田真)

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