artscapeレビュー

バスキア展 メイド・イン・ジャパン

2019年11月01日号

会期:2019/09/21~2019/11/17

森アーツセンターギャラリー[東京都]

最近、1980年代の美術が見直されているが、世界(欧米)的にいうと、モダンアートが行き詰まった70年代の後を受けて、ポストモダンな新表現主義が唐突に花開いた時代。そこに合流したのが、アンダーグラウンドなグラフィティから浮上したジャン=ミシェル・バスキアだ。でも彼はアートワールドに食い込んでいったとはいえ、ゲームとしての新表現主義とは一線を画し、アフリカ系でグラフィティ出身という出自を作品に反映させた。その結果、新表現主義の画家の多くが21世紀を迎える前に消えていったのに対し(その代表がシュナーベルだが、彼が90年代に映画監督に転身して『バスキア』を撮ったのは示唆的だ)、バスキアは本人が消えても、作品は消えるどころかますます評価が高まり、世界各地の美術館で回顧展が開かれるようになった。もちろん単に作品が再評価されたというだけではなく、差別に苦しみ、わずか27歳で夭逝したという伝説も再評価に貢献しているはすだが。

バスキアの絵画のいちばんの特徴は、画像と文字が共存していること。もともとグラフィティは文字をデフォルメすることから始まったが、バスキアの文字はデフォルメされず、むしろ画像のほうが記号化しており、両者の関係はつかず離れず曖昧だ。なんとなく絵画というより書画と呼びたくなってくる。その画像は即興性やスピード感にあふれ、表現主義的というより「落書き」的といったほうがふさわしい。既成のキャンバスだけでなく、ドアに描いたり、木枠を井桁に組んで布を張った上に描いたり、ストリート感も満載。しかしそれも初期の一時期に限られている。作品の制作年を見ると1981-85年が多く、晩年の1986-88年はわずかしかない。とりわけ1982-83年に集中し、質的にも高い。それ以降はコピーやコラージュを多用し、画面の密度も薄くなり、明らかに失速していくのがわかる。

展覧会のタイトルは「メイド・イン・ジャパン」。約123億円で作品を購入した前澤友作氏をはじめ、日本人コレクターや日本の美術館のコレクションが出品されていること、五重塔や空手、マンガのキャラクター、「YEN」など日本ゆかりのモチーフを描いた作品も多く出ていることによる。ゴッホもそうだったように、100年後のバスキアも日本に憧れていたのか。

2019/10/08(火)(村田真)

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