artscapeレビュー

Unknown Image Series no.8 #1 山元彩香「organ」

2020年02月01日号

会期:2019/11/01~2019/11/30

void +[東京都]

1983年、兵庫県生まれの山元彩香はこのところ急速に作品世界を深化させている。今回、カトウチカがキュレーションする「Unknown Image Series」の8回目として企画された本展でも、意欲的な作品を展示していた。山元はこれまでラトビア、エストニア、ロシア、ウクライナ、ルーマニアなどロシア・東欧圏の少女たちをモデルに撮影を続けてきた。言葉によるコミュニケーションがままならないので、身ぶりや表情で意思を伝えつつ、モデルとともに神話的といえそうな場面を創出していく。そのプロセスは、ときにやや強引に見えることもあったが、近作では「何を目指していくのか」という目標設定の共有が滑らかになり、写真に説得力が出てきた。それとともに、仮面、彫刻、写真、布などを積極的に画面に取り入れることで、シャーマニスティックな雰囲気を巧みに醸成している。

だが、今回のメインの展示は写真作品ではなく、《organ》と題する7分ほどの映像作品である。映像そのものの構造はいたってシンプルで、黒い木の箱の上に横たわる長い髪の少女を真横から撮影したものだ。手作りの白い衣装を身に纏った少女は、目を閉じ、手と脚を箱から垂らしてじっとしている。あたかも死者のような姿なのだが、彼女の胸が上下しているので、生きていることがわかる。さらに彼女は微かに何か子守唄のような旋律をハミングしている。山元がこの作品にどんな意味を込めたのかは定かではないが、楽器、あるいは臓器という意味を持つ「organ」をタイトルに使ったことから、あらゆるものを受け容れ、歌として吐き出していく少女の存在を、安らぎと緊張感が同居する印象深いイメージとして定着させようとしたのだろう。山元が本格的な映像作品を発表するのは初めてだと思うが、その試みはとてもうまくいっていた。アフリカのマラウイで撮影したという次の作品も楽しみだ。

2019/11/26(火)(飯沢耕太郎)

2020年02月01日号の
artscapeレビュー