artscapeレビュー

Ryu Ika 写真展「いのちを授けるならば」

2020年02月01日号

会期:2019/11/19~2019/12/07

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

このところ、各写真学校、大学の写真学科に中国人(香港、台湾を含む)の留学生の姿が目立つようになった。そのなかから、いくつかの写真コンペティションで受賞する者も出てきている。一昨年の第19回写真「1_WALL」でグランプリを受賞し、2019年7〜8月に受賞展「生きてそこにいて」(ガーディアン・ガーデン)を開催した田凱、第8回エモンアワードでグランプリを受賞し、昨年7〜8月に受賞展「Dyed my Hair Blond, Burnt Dark at sea」(エモン・フォトギャラリー)を開催したLILY SHUなどの動きを見ると、はっきりとひとつの流れがかたちをとり始めているように感じる。今年の第21回写真「1_WALL」でグランプリを受賞し、今回コミュニケーションギャラリーふげん社で個展を開催したRyu Ika(劉怡嘉)も、まさにその一翼を担うひとりといえる。

Ryuは1994年、中国・内モンゴルの生まれで現在武蔵野美術大学映像学科に在学中である。その作品世界は、異様なほどのテンションの高さに特徴があり、被写体となるモノも、人物も、風景も、暴力的とさえいえそうなエナジーによって充填されている。今回展示された新作「いのちを授けるならば」のシリーズも例外ではない。同シリーズは、友人が「自分の体を自分のものと感じていない。本当の自分は海から来ていて、波に乗ってバラバラになって海辺にたどり着く」と話してくれたことに想を得て制作された。海岸に漂着した木や貝やビニール袋を自分の体と同一視する友人とともに、彼女の誕生日に海辺に出かけ、裸で波や漂着物と戯れる様子を撮影している。そのクローズアップを含む、荒々しいタッチの写真群を壁に貼り巡らせ、その一部を赤いフィルターを装着したライトで照らし出していた。

内モンゴルの風物を、獲物に飛びかかるように撮影したこれまでの作品もそうなのだが、Ryuの写真には「世界はこのようにしか見えない」という強力な確信が宿っている。その身を切るような切実さは、同世代の日本人の写真家にはなかなか真似のできないものだ。これから先も、Ryuを含む日本在住の中国人写真家の仕事に注目していきたい。

2019/11/27(水)(飯沢耕太郎)

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