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保科豊巳退任記念展「萃点」SUI-TEN

2020年02月01日号

会期:2020/01/07~2020/01/19

東京藝術大学大学美術館[東京都]

母校の東京藝大で4半世紀にわたって後進の指導に当たり、美術学部長まで務めた保科豊巳の退任記念展。タイトルの「萃点」とは南方熊楠の造語らしく、さまざまな物事が集まる地点、交差点といった意味だそうだ。遠くからパッと見たら「笑点」かと思った(笑)。

作家としての保科は、1980年代初頭、湾曲させた数本の細い角材を交差させて壁と床に止め、上から覆うように和紙を貼った緊張感のあるインスタレーションでデビュー。展覧会でもメディアでも藝大で同級だった川俣正としばしばライバル視され(ぼく自身よく一緒にメディアで紹介した)、1982年には川俣がヴェネツィア・ビエンナーレに選ばれたのに対し、保科はパリ・ビエンナーレに出品するなど、競い合っていた。ぼくの見るところ、作品も言動も「剛」の川俣に対し、保科はよくも悪くも「柔」という印象があリ、どこかつかみどころがなかった。ま、そこがおもしろかったんだけど。

しかし80年代後半から川俣が海外に活動の場を広げていくのと対照的に、保科の活動は減速。カタログの展覧会歴(抜粋)を見ると、80年代には毎年4本くらい発表していたのに、90年代には年に1本程度に減っている。その原因のひとつが教員生活だ。日本では制作活動だけでは食えないから、大半の作家は教職を兼ねる。でも、いちど教育現場に携わると、雑務に追われて制作どころでなくなり、作家活動を止めざるをえなくなる。特に根がマジメな人間ほど教職にのめり込みがちだ。その点、保科は「柔」だからうまいこと乗り切るんじゃないかと思っていたが、後輩の齋藤芽生がカタログに書いた「ご挨拶に代えて」を読む限り、意外とマジメに仕事していたらしい。本当かなあ? でも学部長まで上りつめたんだから本当だろう。

横道にそれた。展示は最初期のパフォーマンスの記録写真から、パリ・ビエンナーレの出品作の再現、屋外インスタレーションの記録写真、スケッチやドローイング、最近の井戸や家型の作品までバリエーションに富んでいる。が、なんか物足りない。それは彼の作品の大半がインスタレーションなので現物が残っておらず、おまけに近年は地方や韓国、中国など海外での発表が多いため、ぼく自身が見ていないせいかもしれないが、それにしても物足りないなあ。ようやく宮仕えを終えて自由の身になったんだから、これからに期待したい。

2020/01/11(土)(村田真)

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