artscapeレビュー
今 道子 作品展
2020年02月01日号
会期:2019/11/18~2019/11/30
巷房[東京都]
昨年もメキシコを題材とした写真を中心とした作品で個展「Recent Works 2018」(PGI)を開催した今道子が、あまり間を置かず東京・銀座のギャラリー巷房の3階と地下スペースを使って新作展を開催した。このところのコンスタントな作品発表を見ると、彼女の新たな開花期が来つつあるのではないかと思う。
地下スペースには、人形(日本、西洋)、動物や鳥の剥製などを装飾物でデコレーションした、いつもの作風の大作が並んでいたが、3階のスペースでは意欲的なチャレンジを試みている。今回の展示のメインになっているのは、人形作家、四谷シモンのポートレート作品なのだ。これまでは、魚、魚介類、野菜、果物のような「生もの」を使うことはあっても、人間の姿を画面の中に取り入れることはあまりなかった。1990年代には、ヌードの男性モデルや、セルフポートレートを撮影したりしたことがあった。また例外的にドイツ文学者の種村季弘をモデルとした「種村季弘氏+鰯+帽子」(2000)も制作している。だが、今回の四谷シモンのポートレートは数も多く、はじめての本格的なシリーズとして成立していた。
本人は「人間はオブジェを撮るよりむずかしい」と語る。特に顔をコントロールするのに苦労したようだ。だが結果的には、澁澤龍彦邸で澁澤龍子夫人や自作の人形ととともに撮影した作品や、今の自宅で鏡にカメラと自分の顔の一部を映し込んで撮影した作品など、これまでにない新たな領域が見えてきていた。つまり、オブジェ作品としての完成度を高めるだけでなく、モデルとその周囲の環境をストーリー仕立てで構築していくという方向性である。もしまた機会があれば、誰か別のモデルで、ふたたびポートレート作品に取り組んでほしいものだ。
2019/11/27(水)(飯沢耕太郎)