artscapeレビュー
今井壽恵の世界:第一期 初期前衛作品「魂の詩1956−1974」
2020年02月01日号
会期:2020/12/03~2020/12/27
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
一昨年から昨年にかけて、東京都写真美術館で個展を開催した山沢栄子、同じく2018年に高知県立美術館と東京都庭園美術館でフォトコラージュ展を開催した岡上淑子など、このところ1950-60年代の女性写真家の仕事に注目が集まっている。今井壽恵(1931-2009)もまさに同時代の写真作家だが、2002年に清里フォトミュージアムで回顧展「通りすぎるとき―馬の世界を詩う」が開催されたくらいで、特に近年はあまりまとまって作品を見る機会がなかった。今回、コミュニケーションギャラリーふげん社で「ふげん社ディスカバリー・シリーズvol.1」として開催される連続展「今井壽恵の世界」をきっかけに、そのユニークな作品世界にスポットが当たるといいと思う。
今井は、銀座・松島ギャラリーで1956年に開催した個展「白昼夢」でデビューする。東京・中野で写真館を経営していた父の友人の勧めで、自宅の4畳半を仮設のスタジオに改装し、海辺で拾ったオブジェにプロジェクターで画像を投影したりして「心象風景」を作り上げていった。その初個展が瀧口修造や細江英公に激賞され、一躍新進写真家として脚光を浴びる。その後「ロバと王様とわたし」(1959)、「オフェリアその後」(1960)といった物語性を強く打ち出した話題作を次々に発表し、日本写真批評家協会新人賞、『カメラ芸術』芸術賞を受賞する。今回のふげん社での展示では、それらの初期の代表作だけでなく、1964-74年にエッソスタンダード石油(現・ENEOS)の広報誌『Energy』の表紙に連載した、抽象性の強いカラー写真のシリーズも展示されていて、今井の作品世界が豊かな広がりを持つものであることをあらためて確認することができた。
なお、ふげん社では「今井壽恵の世界:第二期」として「生命(いのち)の輝き―名馬を追って」(2021年1月7日〜1月31日)が開催される。今井が1960年代後半以降に情熱を傾けて撮影した馬たちの写真群も、初期作品とはまた違った輝きを発している。そちらも楽しみだ。
2020/12/12(土)(飯沢耕太郎)