artscapeレビュー
青木野枝 霧と鉄と山と
2020年02月01日号
会期:2019/12/14~2020/03/01
府中市美術館[東京都]
青木はこれまで美術館で何度も個展を開いてきたが、これは並大抵のことではない。なんてったって美術館は広いから、展示室を埋めるだけの作品がなければいけない(もちろんそれ以前に、質の高い作品をつくって美術館に認めてもらわなければならない)。特に青木は鉄の彫刻で、しかも場所に応じてサイズも形態も変えるから、搬入・設置・撤去も大変な作業になる。ほんと、彫刻家はつらいよ。
でも今回の個展を見て、なるほどと思った。彫刻は全部で17点ほどあるが、インスタレーションとして見れば8点と数えることもできる。特に三つある企画展示室には各1点ずつ。たった1点でも「もつ」のは、作品自体がデカイこともあるが、なにより空間全体をひとつのインスタレーションとして成立させているからだ。まず展示室1では、溶断した鉄の環を二つ組み合わせ、一部にガラスをはめ込んだユニットを数百個つなぎ合わせて、直径7、8メートルほどの巨大ドームをつくる。大きすぎて搬入できないので、その場で組み立てたはず。これが彫刻作品《霧と鉄と山―I》だが、それだけでなく、周囲のガラスの陳列ケースに波形の板を掛け軸のように掛け、全体でひとつのインスタレーションとしているのだ。
展示室2には、石膏によるやはりドーム型をした《曇天I》《曇天2》の2点が置かれている。彫刻としては2点だが、この部屋も周囲をガラスの陳列ケースが囲んでおり、ひとつのインスタレーションとして捉えることができる。展示室3も同じく空のガラスケースに囲まれ、1にあった鉄の環のドームを少し扁平にして耳を生やしたような、どことなくユーモラスな形の《霧と鉄と山―II》が鎮座する。これでインスタレーションとしては3点。数は少ないが見応えはある。
ほかにも企画展示室の前室とロビーに、デビュー当時の作品や使い古しの石鹸を積み重ねた新作を展示している。驚くのは、版画やドローイングも含めて大半が2019年の制作であること。青木は制作時間の9割方を鉄板の溶断に割くとどこかで述べていたが、アトリエではひたすら溶断し、部分的に溶接もするが、作品の全体像が姿を現わすのは展示場所においてだという。美術館を新作で埋めることができるのも、こうしたユニークな制作方法を確立しているからだろう。
2019/12/20(金)(村田真)