2020年10月15日号
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artscapeレビュー

小林紀晴 写真展 孵化する夜の啼き声

2020年02月01日号

会期:2019/12/11~2019/12/24

銀座ニコンサロン[東京都]

小林紀晴は、このところ、日本各地の祭事や祭礼を撮り続けている。じつは、小林と同世代、あるいは彼よりやや若い写真家たちのなかで、同じような題材を選ぶ者がかなり多い。それらの写真を見るたびに、なぜ祭事や祭礼なのかという疑問を覚えることがよくある。民俗学をバックグラウンドとして祭事を撮り続けてきた芳賀日出男や須藤功の場合には、その動機ははっきりしている。日本人の宗教観や死生観が、最もよくあらわれてくるのがそれらの行事であり、撮影によって視覚的なデータを得ることができるからだ。だが、小林らが何を目的として撮影しているのかは、写真を見ている限りではうまく伝わってこない。

小林が会場に掲げていたコメントに以下のように記しているのを読んで、「なるほど」と思った。祭事や祭礼は夜通しおこなわれることが多いので、漆黒の闇に包まれてじっとしていると「奇妙な感覚」に襲われることがある。眼前の人の姿や光景が裏返って「千年前と千年後、現実と異界、ケとハレ、明と喑といったものがゆっくりと反転し、時間と空間が奥行きをもってねじ切れたとき、亀裂が生じ、やがて激しく割れる」。そこで「私はぷっくりと生まれ出でた“モノタチ”を目撃する」というのだ。これは、客観的な記録を基調とする従来の民俗学的な写真のあり方とはまるで違う、写真家の個人的な体験に根ざした撮影の動機といえる。祭事や祭礼は、その「時間と空間が奥行きをもってねじ切れ」るという感覚を引き出すための装置と見るべきだろう。

それはそれでよいが、それならば、その個人的な体験にもっと集中し、写真の選択、配置の仕方をより厳密におこなってほしい。展示されている写真には、祭礼の前後の日常を撮影したものがかなり多く含まれているが、それらは明らかに緊張感を欠いている。大小の写真をズラしながら、重ねていくような展示構成も、視点が拡散してしまうので一考の余地があるだろう。なお、本展にあわせて赤々舎から同名の写真集が刊行された。本展は2020年1月9日〜1月22日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2019/12/12(木)(飯沢耕太郎)

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