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石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語

2020年02月01日号

会期:2019/11/01~2020/01/31

ちひろ美術館・東京[東京都]

写真家・石内都は28歳で写真家として活動し始めたときから、本名の藤倉陽子ではなく母の旧姓名である「石内都」を作家名として用いはじめた。むろん、母に対する敬愛のあらわれなのだが、それだけではなく、母ができなかったこと、やり残したことを引き継ぐという思いがあったのではないだろうか。石内は2000年の母の死の前後から「Mother’s」と題する作品を制作し始める。母の火傷を負った皮膚、遺された下着、口紅、靴などを撮影したこのシリーズは、広島の原爆資料館の所蔵品を撮影した『ひろしま』(集英社、2008)や、メキシコの画家、フリーダ・カーロの遺品を撮影した『Frida by Ishiuchi』(RM、2013)といった作品集に結びつくことになった。

今回、東京都練馬区のちひろ美術館・東京で開催された「石内都展 都とちひろ ふたりの女の物語」もその延長上の企画といえそうだ。石内は1916年生まれの母、藤倉都とほぼ同年代の、1918年生まれのいわさきちひろのワンピースや口紅などの遺品を、「Mother’s」と同様に自然光で、その色味やテクスチャーに気を配って撮影している。その作業を通して、まったく違った生涯を送った二人の女性の姿が重なり合うように見えてくる。藤倉都は18歳で大型2種の自動車免許を取得し、タクシー、トラック、ジープなどの運転手として働いていた。いわさきちひろは東京府立第六高等女学校卒業後、結婚を経て画家として自立することを目指し、絵本を中心に活動しながら独自の作品世界を切り拓いていった。遺品となった衣装の写真を媒介として、まだ女性の社会的な地位が低かった時代を精いっぱいに生き抜いた二人を結びつけようとする試みはとてもうまくいっていた。

少し気になるのは、「Mother’s」で確立された撮影のスタイルが、その後の作品でもほぼそのまま踏襲され続けていることである。衣装の持ち主である女性たちの固有性が、そのことでやや希薄になっているのではないかという気もしないではない。だが、逆に同じ撮り方にこだわることで、世代、国籍、社会的なバックグラウンドなどを超えた、女性性の表現のあり方が見えてくるのではないかとも思う。

2019/12/03(火)(飯沢耕太郎)

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