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坂田一男 捲土重来

2020年02月01日号

会期:2019/12/7~2020/01/26

東京ステーションギャラリー[東京都]

坂田一男というと、たしか日本のキュビスムの第一人者で、作品もその文脈で何点か見たことがあるだけだった。そんな画家の回顧展なのでスルーしかけたが、監修に岡﨑乾二郎の名前があるので見に行くことにした。たぶんそういう人は多いと思う。はっきり言って坂田一男の名前だけじゃ入らないでしょ。そして展覧会も坂田の作品を見るというより、岡﨑の解説を読みに行ったようなもんだった。

坂田一男は1921年に渡仏。レジェに師事し、オザンファンらキュビスム周辺の画家たちと交流し、1933年に帰国。以後、第2次大戦を挟んで、地元岡山でキュビスムを発展させた抽象絵画を追求し続けた。作品を見る限り、レジェやコルビュジエらの影響に始まり、抽象的な画面構成のなかに壷や鯉のぼり、シリンダーみたいなものを描いたりしているのが目を引くが、特に色彩が美しいわけでもないし、仕上げも粗く、けっしておもしろいものではない。だが、岡﨑に言わせれば、坂田は帰国後もブレることなくキュビスム以降の西洋絵画の核心に迫ることができた、日本では例外的存在ということになる。

例えば、師匠のレジェが対象を図として描き、背景を余白として残したのに対し、坂田は地(背景)も図(対象)も等価に描こうとしたとか。あるいは、画面に好んで描いた壷や鯉のぼりやシリンダーは、内部に別の空間を宿しており、それを描くことによって画面を重層化し、絵画に厚みをもたせることができたとか。さらには、洪水により作品の一部がダメージを受けたとき、絵具の剥落やその修復も創作行為に採り込んで、絵画における時間性を攪乱しようとしたとか……。なるほど、そういわれれば納得するし、大いに共感もするのだが、しかしそういわれて作品を見直したところで、多少よく見えるようになったとしても、やっぱり感激するほどの絵ではないよなあ。

タイトルの「捲土重来」とは、忘れられた画家の作品を読み直して再評価するといった意味だろうが、果たして坂田が生きていたら、岡﨑の解説をどのように読んだだろう。よくぞ読み解いてくれたと感激するか、誰の絵の話? と訝しむか。余談だが、友人の画家は展覧会を見て、自分の作品も50年後、100年後に新たな視点で再評価してくれる人がいるだろうか、いや、いることを信じて描いている。なぜなら絵画は時空を超えた人たちと対話できるメディアだから、と述べていた。岡﨑は迷える画家に希望をもたらす伝道師かもしれない。

2020/01/05(日)(村田真)

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