artscapeレビュー
海を渡った古伊万里~ウィーン、ロースドルフ城の悲劇~
2020年02月01日号
会期:2020/11/03~2021/01/11(会期変更)
大倉集古館[東京都]
陶磁器にはまったく興味ないが、この展覧会は興味深く見ることができた。なにが興味深いかって、美術品の破壊と再生を目の当たりにできたからだ。展示は「日本磁器誕生の地─有田」「海を渡った古伊万里の悲劇─ウィーン、ロースドルフ城」の2部構成。1部は古伊万里の紹介だから素通りして、2部へ。ここでウィーン郊外にあるロースドルフ城の陶磁器コレクションの歴史が明かされる。城主のピアッティ家は代々中国や日本の陶磁器をコレクションし、19世紀にこの城を入手してからもコレクションを拡張。ところが第2次大戦後に旧ソ連軍の兵士たちが城を接収し、これらの陶磁器をことごとく破壊して去っていったのだ。まさに蛮行というほかないが、ピアッティ家はこの戦争の悲劇を記憶に留めるため、破片を捨てずに保存公開しているという。
これを知った日本人が古伊万里再生プロジェクトを立ち上げ、破片を調査研究し、一部を復元。西洋では一般に破損した陶磁器は廃棄されるので、日本のように高度な修復技術はないらしい。今回は部分的に修復したもの(足りない部分はそのままにして破片を組み上げる「組み上げ修復」)、足りない部分は補ってオリジナルのとおり修復したもの、および無傷のものを並べて見せている。陶磁器は同じ器を何点もセットでつくることが多いので(もちろん厳密には同じでないが)、修復前と修復後を比較展示することができるのだ。日本で修復された器は、どこが割れたのかわからないほど完璧に復元されていることに驚くが、欠けた部分を空白のまま残した組み上げ修復にも新鮮な驚きと危うい美しさがある。しかしいちばん驚いたのは、破片をそのまま床に並べた展示だ。これはまるで現代美術のインスタレーションではないか。
2020/12/18(金)(村田真)