artscapeレビュー

井津建郎「BLUE」

2023年12月15日号

会期:2023/11/22~2024/01/13

PGI[東京都]

ニューヨークから石川県金沢に拠点を移して製作活動を続けている井津建郎。だが、今回のPGIでの個展は新作ではなく、2001~2004年にプリントされた写真シリーズ(日本では未発表)だった。井津が谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に触発されて制作したという「BLUE」シリーズから25点が展示されていた。

「美は物体にあるのではなく、物体と物体の作り出す陰影のあや、明暗にある」とする谷崎の考え方は、日本人には馴染みやすく、腑に落ちるところが多いのではないかと思う。井津もニューヨークで長く暮らしていくなかで、知らず知らずのうちに日本的な美意識のあり方に引き寄せられていくように感じていたのではないだろうか。日本から呼び寄せたというダンサーのヌード、花や静物などをテーマとして制作された本シリーズは、技術的にはかなり凝ったものになっていた。14×20インチの大判カメラで撮影した画像をプラチナプリントに起こし、やはり古典技法のサイアノタイプ(青写真)の感光剤を何度も塗布して露光を重ね、精妙な陰影表現を試みているのだ。結果的に、その「プラチナサイアノタイプ」の表現効果は驚くべきもので、まさに「物体と物体の作り出す陰影のあや」が見事に浮かび上がってきていた。

ただ、ピカソの「青の時代」のオマージュにもなっているという「BLUE」の色味は、どちらかといえば西欧的な視覚効果を導き出しているように見えなくもない。谷崎が『陰翳礼讃』で主に取り上げているのは、蝋燭の光のような、やや赤みがかった色調なのではないだろうか。むろんそれで本作の価値が下がるというわけではない。井津の「BLUE」は、いわばニューヨークの風土・環境をバックグラウンドとした陰影表現の模索だったといえそうだ。


井津建郎「BLUE」:https://www.pgi.ac/exhibitions/9043

2023/11/22(水)(飯沢耕太郎)

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