artscapeレビュー
公文健太郎「地の肖像」
2023年12月15日号
会期:2023/11/02~2023/11/26
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
1981年生まれの公文健太郎は、いまもっとも精力的に展覧会や写真集刊行の活動を続けている写真家の一人である。2012年に写真エッセイ集『ゴマの洋品店』ほかの仕事で日本写真協会賞新人賞を受賞。以後、農業を中心とした日本の第一次産業にテーマを定め、風土と人の暮らしとの関わりを丹念に取材した写真シリーズを発表してきた。『耕す人』(2016)、『暦川』(2019)、『光の地形』(2020)、『NEMURUSHIMA』(2022)など、近年は写真集の刊行も相次いでいる。
とはいえ、これまでは彼が写真を通じて何を語ろうとしているのか、その狙いがやや拡散していて、うまく読みとれないところがあった。だが、今回のコミュニケーションギャラリーふげん社での個展では、日本の第一次産業における人と自然環境との関わりのあり方が、どのように変わりつつあるのかに焦点を絞ったことで、彼の写真の方向性がより明確にあらわれてきていた。「自然と人間」「人工の自然」「自然と齟齬」という三部構成の展示から見えてくるのは、野菜のビニールハウスやアユの養殖生産など、第一次産業の現場において自然を徹底して管理し、コントロールしていこうとする営みが大規模に進められつつあるという現状である。
公文はそのことをとりたてて否定的に捉えようとしているわけではない。だがそこから、自然と人間の営みとの危ういバランスがいまや破綻しかけているという状況が、くっきりと浮かびあがってきていた。それはむろん、日本国内にとどまることのない、よりグローバルな広がりを持つテーマでもあるだろう。さらなる展開が期待できる写真展だった。
公文健太郎「地の肖像」:https://fugensha.jp/events/231102kumon/
関連レビュー
公文健太郎『NEMURUSHIMA』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2022年09月15日号)
公文健太郎『光の地形』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2021年02月01日号)
2023/11/17(金)(飯沢耕太郎)