artscapeレビュー

尾仲浩二「10 Days 釜山 1996年」

2023年12月15日号

会期:2023/11/11~2023/11/19(土日のみ)

Gallery街道[東京都]

尾仲浩二は1996年5月に韓国・釜山に出かけた。前年にふとしたきっかけで釜山からきた観光客と知り合い、「釜山に行きたくなった」ということだったようだ。知り合いの写真家を頼ってフェリーで釜山に渡り、10日間あまりを当地で過ごす。そのあいだに撮影したモノクローム写真は、『アサヒカメラ』(1996年10月号)に発表されるが、カラーポジ・フィルムで撮影した写真は未発表のままだった。本年9月に本シリーズの展覧会が釜山のギャラリーで開催され、同名の写真集も刊行された。本展(11月28日~12月10日に大阪のギャラリー・ソラリスに巡回)は、その日本でのお披露目の展示ということになる。

旅での出来事を記した日記の文章を読みながら、会場に並んでいる写真を見ていると、四半世紀前の時空間の手触りが、確かなリアリティをともなってよみがえってくる。尾仲は過度に主観的な見方に偏ることなく、目の前に生起してくる事象を淡々と写しとっていく。そのことによって、ごく私的なものだったはずの旅の経験が、観客一人ひとりの記憶と重なり合い、共振するような普遍性を帯び始める。そのあたりの撮影の呼吸と、被写体との距離感の設定は絶妙としか言いようがない。「旅の写真家」として1980年代以来積み上げられてきた尾仲の写真は、なかなか真似のできない領域に達しつつあるのではないだろうか。カラー写真が加わることで、時空を超えて、より生々しい現在性が強まってきているように感じられるのも興味深かった。


尾仲浩二「10 Days 釜山 1996年」:https://kaidobooks.jimdofree.com/exhibition/2023/onaka11/

2023/11/19(日)(飯沢耕太郎)

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