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牛腸茂雄 写真展 “生きている”ということの証

2023年12月15日号

会期:2023/11/03~2023/12/24

市立伊丹ミュージアム[兵庫県]

牛腸茂雄という写真家の仕事には不思議な力があって、写真が決して古びることなく、常にみずみずしい現在性を保ち続けている。没後40年を期して開催された今回の市立伊丹ミュージアムの展示でも、そのことを強く感じた。

展示の構成は、過不足のないオーソドックスなもので、2階の第一会場にはノートや手紙などを含む資料と最初の写真集『日々』(関口正夫との共著、1971)に収められた作品。第二会場には写真集『SELF AND OTHERS』(1977)の全収録作と、インクブロット作品集『扉をあけると』(1980)などの関連資料。地下の第三会場には写真集『見慣れた街の中で』(1981)と遺作となった『幼年の「時間(とき)」』の作品群が並んでいた。

興味深かったのは、第一会場で上映されていた映像作品で、牛腸と桑沢デザイン研究所時代の仲間たちが共同制作した短編映画『まち』(1970)、『The Grass Visitor』(1975)、「Game Over」(同)、さらに牛腸撮影の未編集フィルム(1978)などを見ると、彼が動画の制作にも並々ならない意欲を持っていたことがわかる。ノートに残された詩、回想記、姉への手紙などから伝わる高度な文筆の能力も含めて、牛腸の表現者としての才能の多面的な広がりについては、もう一度見直したほうがいいと思った。

今回の展覧会には、おそらく牛腸の作品についてこれまであまり関心を持っていなかった若い世代も訪れるに違いない。まさに「“生きている”ということの証」というタイトルそのものの切実さを感じさせる彼の仕事を、歴史のなかに埋もれさせるのではなく次世代にも受け継いでいくことが必要となる。その第一歩にふさわしい企画展といえるだろう。


牛腸茂雄 写真展 “生きている”ということの証:https://itami-im.jp/exhibitions/牛腸茂雄-写真展-生きているということの証/

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2023/11/17(金)(飯沢耕太郎)

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