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今村源 遅れるものの行方展

2023年12月15日号

会期:2023/11/03~2024/01/28

水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]

今村源の作品には以前から注目している。筆者はきのこ(菌類)に強い関心を抱いているので、現代美術のフィールドで同様の志向をもつ彼の仕事がいつも気になるからだ。静岡市美術館での「わた死としてのキノコ」(2013年8月~10月)以来、美術館での個展としては10年ぶりという今回の水戸芸術館現代美術ギャラリーの展示でも、まさに「きのこ的」としか言いようのない作品が並んでいた。

だが、立体作品のインスタレーションだけではなくドローイングも含む55点の作品を見ると、きのこの形象がはっきりとあらわれているものも多いが、むしろ彼の作品のライトモチーフとなっているのが菌糸であることがわかる。実は菌類の本体は細長い細胞が連なった菌糸であり、きのこ(子実体)は植物でいえば花や果実にあたる生殖器官である。菌糸は普段は人の目に触れることなく、地下に生と死の両方の領域にまたがる巨大なネットワークを形成し、生きものたちの活動にさまざまな作用を及ぼしている。今村の作品は、そのような不可視の世界のあり方を、日常的な事物を紐や針金のような構造体で結びつけ、つなぎ合わせることで浮かび上がらせようとする試みなのではないかと思う。

共感とほのかなユーモアとが絶妙にブレンドされた彼の作品世界はとても魅力的だ。今回の展示では、まさに菌糸の先端の感触を繊細に定着したようなドローイング作品が特に印象深かった。今村は言葉を綴る能力も高いので、「絵本」のような形で彼のドローイングと文章を合体させるのもいいのではないだろうか。


今村源 遅れるものの行方展:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5251.html

2023/11/21(火)(飯沢耕太郎)

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