artscapeレビュー
ミース・ファン・デル・ローエ賞展
2009年02月15日号
会期:2009/1/21~1/27(第一会場)/1/21~2/11(第二会場)
東京都庁第一本庁舎南塔45階展望室(第一会場)/第二会場:新宿パークタワー1階 ギャラリー1(第二会場)[東京都]
ヨーロッパのもっとも優れた建築に与えられるミース・ファン・デル・ローエ賞の展覧会。日本風に味付けされた展覧会というよりも、ダイレクトにヨーロッパで行なわれた展示をそのまま巡回展示している雰囲気が、新鮮だった。2つの会場で開かれ、都庁の第一会場は無料で、パネル展示とバルセロナ・パヴィリオンの模型などを展示。第二会場は有料で、こちらはパネルのほか、過去のミース賞受賞作、奨励賞受賞作、ノミネート作などの模型数十点を見ることが出来る。
ミース賞は、1988年にはじまり2年ごとに与えられている。2001年からはミース賞のほか、若手への奨励賞という2つの賞が生まれた。毎年、数百の作品がヨーロッパ中から送られるという。「EU現代最優秀建築賞」というように、「ヨーロッパ」の建築賞でもある。ヨーロッパの建築家が、ヨーロッパに建てている建築であることが条件。ただヨーロッパの境界は簡単ではなく、例えば2001年以降、スイスの建築家がミース賞を取得することは出来なくなった。しかし、今回日本で展示されたように、ヨーロッパだけに閉じられた形ではなく、例えば審査員では過去に伊東豊雄や妹島和世といった日本人も参加している。
ほかの賞との比較でいうと、イギリスのRIBAゴールドメダル(1848-)、アメリカのAIAゴールドメダル(1907-)、国際建築家連合のUIAゴールドメダル(1984-)、またアメリカのプリツカー賞(1979-)、イギリスのスターリング賞(1996-)が、いずれも建築家に与えられるのに対して、ミース賞は作品に対して与えられる賞。ほかに作品に与えられる賞では、イスラム建築に与えられるアガ・カーン建築賞(1977-)やフランスのエケール・ダルジャン賞(銀の定規賞、1983-)などが有名。EUの賞であるミース賞の特徴は、現在のヨーロッパ建築の動向が見えてくるところであり、今回の展示もヨーロッパの過去20年の建築を見せるという主旨がある。
展覧会では、第二会場に入って左の部分に過去の受賞作、右の部分にノミネート作の模型が展示。個人的には左の作品はよく知られたものであったので、むしろ受賞に至らなかったノミネート作品の方が面白かった。日本で知られていない作家がかなり多く、確かにヨーロッパで雑誌を見ていると、目にしそうな作品群であるが、ヨーロッパの現状をフィルターなしに見せる好展覧会であると感じた。一方で、作品説明は少なく、これをどう見てよいか分からないという人も多かったかもしれない(そのために、別に関わっている「建築系ラジオ」で、オフィシャルではないが、オーディオ・ガイドを制作した)。とはいえ、おそらくヨーロッパではこのまま展示していたわけで(2007年にマドリッド、2008年にパリで同じ展覧会が開かれている)、この展覧会の良さのひとつは、ヨーロッパの生の空気をそのまま味わえるところにあったのかもしれない。学生にとっては、模型の表現力の多様さと豊かさは、日本と異なる部分が多く、かなり刺激になったはずだ。
2009/01/26(月)(松田達)