artscapeレビュー

ERIC『中国好運 GOODLUCK CHINA』

2009年02月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2008年11月22日

エリックこと鐘偉榮は1976年に香港で生まれ、日本に来て東京ヴィジュアルアーツで写真を学び、2001年頃から作品を発表するようになった。これまでは日本や世界各地のスポットを訪れる観光客を、やや皮肉な視線で見つめ、定着する、切れ味のいいスナップショットを撮影・発表してきたが、2005年頃から中国の人々にカメラを向けるようになった。そのことで彼自身の認識が大きく転換したということを、写真集のあとがきにあたる文章で彼はこんなふうに書いている。
「そして私は、自分が香港以外で初めて感情移入のできる被写体に出会えたことに気付いた。[中略]日本で日本人を写すとき(また、諸外国で彼地の人々を写すとき)、私は、その被写体に何の感情移入もせず、その意味では外側から捉えて、ただ『おもしろさ』を基準にシャッターを切ってきていた」。
この感情移入というのは、どうやらポジティブな共感や好意だけではないようだ。「強く反発することも決して少なくないし辟易することさえもある」という。だが、どちらかといえば距離を置いた、批評的な視点から撮影されていた彼のスナップショットが、少しずつ変化しつつあることは確かだと思う。少なくとも、このような愛憎相半ばした生々しい中国人のポートレートは、エリックのような複数の国に所属している写真家でないと、なかなか撮れないだろう。こうなると、彼のホームタウンである香港の写真も見てみたい。それにはもしかすると、これまでのような出合い頭のスナップショットではない方法論が必要になるかもしれない。

2009/01/10(土)(飯沢耕太郎)

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