artscapeレビュー
高梨豊「光のフィールドノート」
2009年02月15日号
会期:2009/1/20~3/8
東京国立近代美術館[東京都]
展覧会のタイトルが「光のフィールドノート」。展示されている作品を入り口から順番にあげると、「SOMETHIN’ELSE」「オツカレサマ」「東京人」「都市へ」「町」「東京人1978-1983」「都市のテキスト」「都の貌」「next」「地名論」「ノスタルジア」「WINDSCAPE」「囲市(かこいいち)」「silver passin’」。
どれも文学的な教養を介してよく練り上げられ、的確にその内容を言い当てている。高梨豊が何よりも考えつつ写真を撮ってきた作家であることが、これらのタイトルにはよくあらわれている。
だがその写真が理屈っぽく、観念的かといえば決してそうではない。ポートレートなどでは演出的な写真もあるが、高梨の真骨頂はスナップショットであり、そこでは思惑を捨ててひたすら歩きまわり、イメージの「拾い屋」に徹し切っている。都市も田舎も、彼ほど日本全国を移動している写真家は、ほかにあまりいないだろう。撮ることの身体性をよく熟知しつつ、思考の抽象性もまた同時に研ぎ澄ませていく──知力と体力の素晴らしくバランスがとれた結合を、今回の処女作から未発表の新作まで、約250点で構成された回顧展で愉しく、しっかりと確認することができた。
個人的には「初國」のパートが一番見応えがあった。1980年代~90年代初頭にかけて、日本各地の「聖地」を訪ね歩いたシリーズだが、そこにはこの国に特有の土地の手触りが見事に捉えられていると思う。
2009/01/20(火)(飯沢耕太郎)