artscapeレビュー

岡田利規 演出『タトゥー』(デーア・ローアー作、三輪玲子 訳)

2009年06月01日号

会期:2009/05/15~2009/05/31

新国立劇場 小劇場[東京都]

父娘の近親相姦が物語の中心。不在と化してくれない父にうんざりする家族の絶望的な状況が描かれる。演劇界の内輪においてはインパクトのあるテーマや台詞回しなのかも分からない。けれども、正直、新鮮さを感じなかった。ローアーの特徴とされる「無名の人々へ寄せる痛みに似た思い」(新野守広『ベルリンの窓』パンフレット、p.14)は、ひと頃のベンヤミン・ブームの際に語られまくったクリシェ以上には感じられない。こうした「痛み」を自ずとステレオタイプにし、これを語ればなにかを語ったことになるなどと思いなす無邪気な思考に基づいた荒唐無稽な形式こそ危険なはずで、そうした形式を批評していかない限り、「思い」はなんら在るべき実質を持ちえない気がする。
岡田利規は戯曲をポップなものへと変貌させていた。岡田の舞台は音楽に似てきている気がする。家族の会話は、極端な棒読み。冷え切った家族の表現であるとして、いつの間にか初音ミクが喋っているかのように聞こえてくる。娘を救い出そうとする青年が娘と執拗に続けるキスは、舌と舌が接触するだけ、奇妙で人間的じゃない。けれども、不思議にエロティックで、その反復のリズムはきわめてポップ。時に応じて上下動する、美術作家・塩田千春がドイツで収集した大小の窓枠、テーブル、椅子、ベッドの間を、岡田のアイディアが飄々と泳いでいた。

2009/05/22(木村覚)

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