artscapeレビュー
現代の水墨画2009 水墨表現の現在地点
2009年06月01日号
会期:2009/04/21~2009/05/31
練馬区立美術館[東京都]
水墨表現の可能性を追求している美術家たちを紹介する展覧会。伊藤彬、中野嘉之、箱崎睦昌、正木康子、八木幾朗、呉一騏、尾長良範、浅見貴子、マツダジュンイチ、三瀬夏之介、田中みぎわの11名が参加した。これだけの人数がそろえば、たいていの場合、墨絵という同一性にもとづきながらも、それぞれ独自の異質性が際立つものだが、むしろ同一性のほうが前面化しているから不思議だ。それは、おそらく出品作品の大半が、山水画に代表される定型化された水墨表現の伝統を継承しているからだと思われるが、だからといってその伝統を刷新するほど高度な技術を達成しているわけでもないようだ。だから、ただ一人、異質性を発揮していた三瀬夏之介が突出して見えたのは、他の作品が凡庸な同一性に貫かれていたからなのかもしれない。(こういってよければ)「マンガ的に」過剰に描きこむ三瀬の絵は、濃淡やにじみ、かすれ、たらしこみといった墨絵独特の抽象表現の伝統にある程度依拠しつつも、同時にそれをはっきりと切断し、ジャンルとしての墨絵を同時代の地平にまで押し上げることに成功している。それが、今後「三瀬流」として新たに定型化される恐れがないとはいえないけれど、水墨表現の現在地点を確実に打ち込んだことはまちがいない。同時代の水墨画は、「マンガ」というジャンルに依拠しながら水墨表現の可能性を果敢に切り開こうとしている井上雄彦と、三瀬夏之介の2人によって力強く牽引されるだろう。
2009/05/02(土)(福住廉)