artscapeレビュー
スティーヴ・パクストン+リサ・ネルソン『Night Stand』
2009年06月01日号
会期:2009/05/17
スパイラルホール[東京都]
パクストンは、体を接触したまま二人組で踊るC.I.(コンタクト・インプロヴィゼーション)の創始者として有名だけれども、70年代以前は、カニングハムのカンパニーに在籍していたり、ジャドソン・ダンス・シアターに参加したりとアメリカのモダンダンス以後の展開を全身で生きたひとだ。肉眼で初めて見た彼の身体は、マリオネット人形のようにフワっとしていて自由自在。派手な動きはない。胸の辺りがしっかりと核をもち、そのうえで全身が揺れ、全身が見所となっている。最初の5分で打ちのめされた。70才の老体は、大野一雄のことも想起させた。いや、大野はパクストンに比べれば微細さに欠ける。ならばもし土方が生きていたら?などと思って見ていると、舞踏にはない独特の構造的性格が気になってきた。空間を数学的に分割してそれにしたがって移動しているように見える。縦、横、前、後、上、下……。共演のリサ・ネルソンは、パクストンのリズムに応じながら、彼とともに時空を埋めてゆく。旅館の浴衣で額にティッシュ箱を括りつけたり、箱からティッシュを取るとネルソンの体の上に並べたり、即興的な時間が続く。ものとひとがともに自分の身体性を表出している。あわてず丁寧につくりだす時間は、往時の「ポスト・モダンダンス」のかたちを示してくれている気がした。
2009/05/17(木村覚)