artscapeレビュー
2009年06月01日号のレビュー/プレビュー
高田洋一 展
井上廣子 写真展「Inside-Out」
会期:2009/04/03~2009/04/25
FOIL GALLERY[東京都]
写真家・井上廣子の個展。精神病院や少年院の室内を写した写真を壁面に展示するとともに、写真を載せたライトボックスを床置きにして並べたインスタレーションを発表した。照明を落とした空間に浮かび上がる色彩は鮮やかで幻想的だが、一点一点をよく見ると、人が隔離されている場所に特有のはりつめた空気感が立ち込めている。人体は一切写りこんでいないものの、ベッドの白いシーツには人肌の温もりが残されているように見えるし、廃墟のように剥がれ落ちた壁面は、その部屋の主のどうにもならない内面への求心力の痕跡のようだ。時間が停止したような空間でありながら、そこには生々しい息づかいがたしかに感じられる。しかも、外界との唯一の接点である窓の向こう側が白く霞み、ほとんど見通せないから、写真を見る者はまるで鉄格子の内側に収監されたような錯覚に陥るのである。
2009/04/23(木)(福住廉)
ロバート・プラット huntorama2
会期:2009/04/25~2009/05/31
MUZZ PROGRAM SPACE[京都府]
狩猟をテーマにした絵画作品が並んでいる。円形キャンバス2点が並ぶ作品は、双眼鏡越しの眺めを描いたものだ。反対側には双眼鏡を覗くハンターたちの絵もある。狩猟の装飾が施されたビアマグと森を描いた作品は、人間と自然の関係を示唆しているのか。作品の一部にデジタルの画素を思わせる描写が見られる作品もあり、人間と自然、野生と文明、狩るものと狩られるものなど、さまざまなテーマを一つの画面に織り込んでいるようだ。そうした諸要素を、細密描写と奥行感のないレイヤー構造で表現しているのが彼の特徴である。2階では、知人の作家たちを招いたグループ展も開催され、サロン的な空間が作られていた。
2009/04/26(日)(小吹隆文)
金氏徹平:溶け出す都市、空白の森
会期:2009/03/20~2009/05/27
横浜美術館[神奈川県]
アーティスト、金氏徹平の個展。横浜美術館の企画展示室すべてを用いた大規模な展観になっていた。美術館の広い空間を十分埋めるほどの作品数をそろえ、アニメーション作品に挑戦するなど新たな展開を見せてはいるものの、全体としてはどうにも物足りない印象が否めない。まるで一時ヒットした流行歌のワンフレーズを繰り返し聴かされているようだった。それは、もちろん美術家としての表現の幅が依然として狭いことに由来しているのだろうが、それ以前の問題として、表現にたいする空間の容量があまりにも大きすぎたことにも起因していると思う。たとえば、金氏はかつて「MOTアニュアル2008 解きほぐすとき」ですばらしい展示空間を作り上げたが、それと比べると、今回の展示はどうにも大味で、粗雑な構成だといわざるを得ない。「既製品の再構成」という以上、関心の焦点は再構成の仕方と、その結果作り上げられるその場の空間の質に合わせられるのだから、分相応な空間で勝負させることが企画者の務めではないだろうか。
2009/04/26(日)(福住廉)
横浜開港アンデパンダン展
会期:2009/04/21~2009/04/26
BankART Studio NYK[神奈川県]
横浜市内18区からプロ・アマを問わず、ジャンルも問わず、美術作品を公募した上で無審査で作品を展示するという展覧会。しかし、じっさいの展示はいかにも団体展系の作品のオンパレードで、アンデパンダン展の売りである「自由」がじつに一面的で薄っぺらいものになってしまっていた。そうしたなか、辛うじて異彩を放っていたのは、透明なグラスに入ったビールとウィスキーとバーボンを描き分けた、蕨岡省三の平面作品。三つの作品はそれぞれ構図もタッチも色彩もほとんど同じで、タイトルがなければアルコールの種別を見分けることは難しいが、酒を見つめる愚直な視線がほほえましくもあり、なにやら偏執的な匂いも感じさせた。
2009/04/26(日)(福住廉)