artscapeレビュー
神里雄大『グァラニー~時間がいっぱい』(キレなかった14才♥りたーんず)
2009年06月01日号
会期:2009/04/21~2009/05/04
こまばアゴラ劇場[東京都]
〈日系のパラグアイ人〉という説明しにくいアイデンティティを生きる作家が描いた、自伝的な作品。面白かった。冒頭は、作家本人の反映である主人公の喫茶店での1人語り。自分を語る不確かさ、表現の不正確さを確認しながら、パラグアイに移ったばかりの、自尊心と自己嫌悪が混在する少年時代を振り返る。「誰も興味ないだろうが」と言いながら客に向かう矛盾に自嘲する場面がいい。自分を語り紹介するなんて日常でもよくすること。それが演劇化されるとむしろ気づかされるのは、ぼくたちの日常の演劇性。自分を語ることそれ自体の力をひらく神里の手つきはとても丁寧で、だからきわめて個人的なエピソードも他人事とは思えなくなる。夢と現実のギャップ。少年の魅力も惨めさもそこに集約される。エピソードは、「サザン」や「マテ茶」や「ビートルズ」や具体的な対象がどう他人と交わり、誤解や不理解を招いたかを明かすことで、味わい深さを湛える。演劇をちゃんとやっていると思った。
2009/05/05(木村覚)