artscapeレビュー
田中泯パフォーマンス公演
2009年06月01日号
会期:2009/05/16
BankART Studio NYK[神奈川県]
原口典之展にあわせて催された田中泯のパフォーマンス公演。暗い会場に入ると、空間の片隅に田中泯が仰向けに横たわっている。局部は辛うじて隠されているものの、全身素っ裸で、衣服や履物は一切身につけていない。自然美ともいえる筋肉の美しさとは対照的に、全身の皮膚は不自然に着色され、黒ずんでいる。来場者が凝視するなか、徐々に手足を持ち上げ、首を傾け、腰をひねり、立ち上がると見せかけては、また寝転ぶ動作を繰り返す。ようやく立ち上がったと思ったら、両手で天を仰ぎながらゆっくりと歩き出し、原口の油のプールに静かに入る。鏡面のような油の上で踊るうちに、漆黒の油が黒ずんだ身体をさらに塗り変えていき、ついには真っ黒になってしまった。白い眼球と赤い口内がやけに目立つ。足元に手を伸ばす黒い男は、油の表面に映りこんだもう一人の黒い男になにか語りかけ、両者の接点が溶け合っているようにも見える。しかし、油の上に横たわり、右腕一本だけで身体を円状に回転させる動きは、その同一化が決してかなわないことを物語っているようでもある。油から上がった黒い男が、先ほどと同じように天を仰ぎながらゆっくりと会場を移動し、海に抜ける出口の前で、ひとこと「ありがとうございました」と呟くと、来場者から万感の思いを込めた拍手が鳴り響き、しばらくやまなかった。
2009/05/16(土)(福住廉)