2019年07月15日号
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artscapeレビュー

ままごと『スイングバイ』(作・演出:柴幸男)

2010年05月01日号

会期:2010/03/15~2010/03/28

こまばアゴラ劇場[東京都]

舞台床にはところどころラインが引かれてあって、「スポーツでもしそうだな」と思っていたら12人の役者たちの足元は運動靴、開演間際にウォーム・アップを始めた。スーツ姿の柴幸男が本作のテーマは仕事であると観客に向けて語り出す。その後、四方八方から次々と役者が交差して勢いよく書類を受け渡し続けるシーンに移った。〈会社の仕事〉なるものはスポーツのようにチームワークが求められ、スポーツのように業務の意味が希薄なたんなる運動である、そう表現しているように見えた。ところで、ここ(舞台上)はビルの中という設定。今日は入社式。階は「2010年3月22階」。日付が階となっているというだけではなく、例えば「300万階」へ下がれば、そこには人類の祖先のごとき生き物がいるというように、このビルは人類史を階層化している。そこで社員たちが勤しむのは社内報(人類史)の制作(ただし社内報は些細な事項の積み重ねで誰も読まない)。柴に似た新入社員が軸にはなるものの、12人の人間関係はそれぞれ等しくデリケートに描かれる。ただ、その描写の仕方は単線的ではなく切れ切れ、舞台脇の柴の鳴らす合図で短い場面が次々とスピーディーに切り替わり、不規則につなげられてゆくので、最初、それぞれの人間関係はわからないことだらけ。それでも、劇が進み次第に情報が増えることで、ジグソーパズルみたいに徐々に関係のありさまは明瞭になってくる。こうした物語の語り方へ向けた柴らしいアプローチが演劇の可能性を大いに広げている、そうあらためて確認させられた。ラスト、再び業務のようなスポーツのような書類の受け渡しゲームが始まった。空虚な労働のさまは、労働の批判と同時に柴の(父親世代ならば自明であった)労働への憧れともみてとれた。

2010/03/22(月)(木村覚)

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