artscapeレビュー

高祖岩三郎『死にゆく都市、回帰する巷』

2010年07月15日号

発行所:以文社

発行日:2010年6月20日

ニューヨーク在住の批評家・翻訳家である高祖岩三郎による、『ニューヨーク列伝』『流体都市を構築せよ!』に続くニューヨーク論、都市論の三冊目。著者は、ニューヨーク発の42の都市に関するエッセイを通して、2006年から2009年におけるニューヨークの現在を、政治、都市社会学、都市地理学、アートなどの文脈に接続させつつ語る。高祖によれば、「都市化」は「楼閣」と「巷」という二つの要素を持っており、「楼閣」は大建築や交通機関などの基盤施設で、国家や資本によって形成されるもの、「巷」は集合する人々の関係性が活性化したような状況、民衆の集合身体を指す。古典的な都市において一体化していた両者が、現代の都市においては非対称的に分離している。そして「巷」が、周縁に追いやられている。そのような「死にゆく都市」から「回帰する巷」へと、著者は可能性を模索する。42のエッセイは、それぞれに切り口が違っており、幅広く近年のニューヨークを知ることができるのが面白い。

2010/06/20(日)(松田達)

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