artscapeレビュー
2018年06月15日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:ミュンヘン・カンマーシュピーレ『NŌ THEATER』
会期:2018/07/06~2018/07/08
ロームシアター京都 サウスホール[京都府]
ドイツ有数の公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレにて、日本人演出家として初めてレパートリー作品の演出を務めた岡田利規(チェルフィッチュ主宰)。昨年2月に発表された『NŌ THEATER』がロームシアター京都にて上演される。タイトルに「NŌ(能)」とあるように、「能」という演劇形式の可能性を現代演劇として追求した本作は、「六本木」と「都庁前」という2つの演目と、間に挟まれる狂言「ガートルード」から構成される。「六本木」では、現代における「罪深いもの」として「金融」に焦点が当てられ、「都庁前」は、岡田によれば「フェミニズムの能」であるという。
『地面と床』(2013)、『部屋に流れる時間の旅』(2016)といった東日本大震災後に発表したチェルフィッチュ作品で岡田は、「幽霊」の存在を通して、日本社会の構造的歪みや他者との断絶感を鋭く可視化してきた。「幽霊」が主人公として登場する本作も、この系譜上に位置づけられるものであると同時に、現代日本を舞台とした演劇を「ドイツ人俳優がドイツ語で演じ、字幕を通して観劇する」という迂回路をとることで、日本社会を相対化する視座を与えてくれるのではないだろうか。なお本作の国内公演は、京都のみとなっている。
2018/05/31(木)(高嶋慈)
荒木経惟「恋夢 愛無」
会期:2018/05/25~2018/06/23
タカ・イシイギャラリー東京[東京都]
「モデル問題」で、ネガティブな状況に直面した荒木経惟だが、本展を見る限り、写真家としての凄みはさらに増しているように思える。6×7判のカメラで撮影されたプリントが98点並ぶ会場には、この写真家が本気を出したときに特有の、張り詰めた緊張感が漂っていた。
荒木は基本的に「コト」に反応してシャッターを切る写真家だが、時折、あえて被写体を「モノ」として突き放し、一切の修飾語を剥ぎ取った裸形の存在を開示する写真を出してくることがある。今回の「恋夢 愛無」展には、殊のほか、そんな写真が多く選ばれているように感じた。タイトルを勝手につけてしまえば、「右眼の女」、「帰宅途上の小学生」、「洗面台の生首」、「部屋の隅の小人」、「空を指差す指」といった写真群だ。時に微妙にピントがズレたり、ブレたりしている写真もあるが、奇妙な霊気が漂っていて心が揺さぶられる。全点、モノクロームにプリントしたのもよかったのではないだろうか。例によって「写真は、モノクローム。恋は、モノクロー夢。愛は、モノクロー無」と洒落ているが、被写体の骨格をより強く、くっきりと浮かび上がらせることができるモノクロームのほうが、カラーよりも「写真」に内在する輝きと表現力が純粋に宿っているように見える。
本展は、荒木の78歳の誕生日にオープンした。たしかに「後期高齢写」ではあるが、まだエネルギーは枯渇していない。新作がいつも待ち遠しい写真家はそれほど多くはないが、荒木は僕にとっていつでもそのひとりだ。
2018/05/31(木)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2018年6月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
Under 35 Architects exhibition 2018 OPERATION BOOK
35歳以下の若手建築家による建築の展覧会(2018)図録
今秋、うめきたシップホール(大阪)にて開催される「Under 35 Architects exhibition 35歳以下の若手建築家による建築の展覧会2018」の展覧会図録。
「これからの活躍が期待される 35歳以下の出展候補者を全国から募り、ひと世代上の建築家である「平田晃久」の厳正な審査を経て選出された建築作品の展覧会です。また、その出展作品の中から優秀な作品を選出し、Under 35 Architects exhibition 2018 Gold Medal賞 、Toyo Ito Prize(伊東賞)を授与します。本展は、これからの活躍が期待される若手建築家に発表の機会を与え、日本の建築の可能性を提示し、建築文化の今と未来を知る最高の舞台となるでしょう。」
YCAM BOOK
YCAMの活動を紹介する冊子「YCAM BOOK」が完成しました。この冊子は、YCAMの多岐に渡る活動をご紹介するものです。
冊子は、YCAMの概要を紹介する冊子と、2017年度ならびに2018年度の事業を紹介する冊子の2種類に分かれており、それらが組み合わされています。
編集は桜井祐さん+YCAM、アートディレクションは大西隆介さん、表紙などのイラストは楢崎萌々恵さんです。
僅かではありますが、館内で開催するイベントなどで配布する予定ですので、お見かけの際はぜひお手に取ってご覧ください。
シアターコモンズ・ラボ 2017-2018 レポートブック
2017年からスタートした新規人材育成事業「シアターコモンズ・ラボ─社会芸術アカデミー事業」。第1期(2017年度)のレポートブックが完成しました。1年間を通じて5つのラボとセミナーシリーズを開催、100名を超える受講者が演劇的発想を活用し、それぞれの問題意識をあらたな創作や企画に接続するワークショップに参加しました。その濃密な学びの時間を写真と文章で記録したレポートブック全50ページ。ぜひご覧ください。
トーキョーアーツアンドスペース アニュアル 2017
トーキョーアーツアンドスペースの2017年度の活動をまとめた事業報告書。全国の美大や美術館のライブラリーなどでも閲覧可能。
HAPS事業報告書 2017年度
京都在住の芸術家たちの居住・制作・発表を包括的に支援する、東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)のアニュアルレポート。2017年度の活動報告だけでなく、HAPSの事業内容の詳細や支援アーティストの声なども紹介。
神戸スタディーズ#6「“KOBE”を語る GHQと神戸のまち」
「第二次世界大戦後の1945年9月からサンフランシスコ平和条約発効の1952年4月まで、GHQ(General Headquarters=連合国占領軍)に日本が占領されていたことをご存知ですか? 戦時下の神戸については、これまで長い時間をかけて少しずつ解明されてきました。しかし、戦後の神戸にGHQが駐留していたことや、その時期の暮らしに関する記憶は、十分には語り継がれておらず、いまだ知られていないことが多くあります。その主な理由は、神戸には当時の状況を記録した資料が限られてきたこと、そして、戦後の暮らしや“進駐軍”について語られる機会がなかったことにあるでしょう。」
「神戸スタディーズ#6」として、デザイン・クリエイティブセンター神戸で行われたGHQ占領期の神戸のまちについてのレクチャーと、実際にそこに暮らした方々が語りあう公開ヒアリングのレポートブック。
ARTEFACT 01 都市のカルチュラル・ナラティヴ/増上寺
ARTEFACTは「都市のカルチュラル・ナラティヴ」のプロジェクト・マガジンです。
プロジェクトの活動を、レファレンスを追記した書き起こしやレポートなどによって記録するとともに、プロジェクトの活動に参加できなかった人でも、本誌を手にとることによって都市のカルチュラル・ナラティヴを知り、楽しむことができるような誌面作りを目指して、マガジンとしての企画記事も含めた構成をとっています。
海を渡ったニッポンの家具 豪華絢爛仰天手仕事 (LIXIL BOOKLET)
明治時代、輸出用として作られた家具。欧州のジャポニスム流行の波に乗り、陶磁器や七宝、金工品などとともに日本の伝統的な美術工芸品の一つとしてもてはやされた。高度な手技と欧米向けにアレンジされた過剰な装飾でキッチュにも見えるデザインは、当時の輸出家具の特徴と言えよう。他の工芸品と比べ、国内に現存品が少ない中、本書では、珠玉の工芸家具を、寄木細工、芝山象嵌、青貝細工、彫刻家具、仙台箪笥の5つに分け、技法や背景、見どころと併せて紹介する。フォルムの面白さ、そして神業のような装飾などをたっぷりと堪能させてくれる写真家・大西成明による図版満載の一冊。
2018/06/15(artscape編集部)