2018年04月15日号
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artscapeレビュー

国吉康雄展 Little Girl Run For Your Life

2016年07月15日号

会期:2016/06/03~2016/07/10

そごう美術館[神奈川県]

国吉康雄(1889~1953)は、20世紀前半の激動するアメリカで、移民排斥運動や「敵性外国人」のレッテルと戦いながら頭角を現し、教育者として多くの美術学生を指導し、アメリカ芸術家組合の初代会長を務めた画家。晩年はホイットニー美術館で大規模な回顧展が開かれ、ヴェネツィア・ビエンナーレのアメリカ代表に選ばれるなど、アメリカを代表する画家のひとりとして認められたのに、没後その名は急速に忘れられていく。その理由は明らかで、亡くなったころから抽象表現主義がアートシーンを塗り替え、国吉のような抒情的な具象画は早くも時代遅れと見なされたからだ。だいたい国吉の絵は、20~30年代はパスキン、戦後はベン・シャーンを思わせる画風で、デッサンは狂ってるし色は濁ってるし、むしろ生前なぜ高く評価されたのかわからないくらい。おそらく国吉の評価は作品自体より、日本人に対する差別と偏見を押しのけてアメリカに忠誠を誓った彼の生き方に対する評価ではないか。興味深いのは、第2次大戦中にOWI(戦時情報局)の依頼で描かれた戦争ポスターの下絵。中国人を拷問・殺戮するシーンや、日本の軍人を鎧兜姿の武士にたとえた絵もあり、早い話が、日本人が日本を敵に回した戦争画なのだ。そして国吉は戦後、藤田嗣治がアメリカで個展を開いたとき、日本で戦争画を描いて国民を煽動したという理由で個展を妨害したという。藤田はかつて国吉が一時帰国する際に紹介状を書いた「恩人」であるにもかかわらず、だ。無意味な問いだが、もし日本が戦争に勝ってたら立場は逆転しただろうか。このへんは歴史のいたずらというしかない。いろいろ考えさせる展覧会。余談だが、最後のコーナーには瀬戸内国際芸術祭の宣伝を兼ねたパネル展示があった。展覧会の主催に福武財団も名を連ねているからね。

2016/06/23(木)(村田真)

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