artscapeレビュー

MAMプロジェクト 017:イ・チャンウォン

2012年07月15日号

会期:2012/06/16~2012/10/28

森美術館ギャラリー1[東京都]

暗い壁に人や動物の姿が白く映し出され、なにやら楽しそうだ。その下には台が並び、人や動物の姿を切り抜いた元ネタの図版が置かれている。切り抜いた部分に鏡がはめられ、斜め上から光を当てているので、壁に映された像が図版の切り抜きからの反射だとわかる。よく見ると、壁の牛は洞窟壁画に描かれた野牛を思い出させるし、その横にある人の手はまるで古代人が印した手形のようだ。また、輪になって踊る人たちはマティスの「ダンス」を思い起こさずにはおかない。なるほど、よくできたインスタレーションだ。が、それで終わりではない。じつは、元ネタの図版は戦場や災害地や事故現場を写した報道写真で、踊る人は兵士だったり銃弾に倒れた死体だったり、羽ばたく鳥は重油にまみれてもがく野鳥だったりするのだ。その悲惨な図像と楽しげな反射像とのギャップに観客は一瞬、世界の裏をかいま見る。この作品のタイトル《パラレル・ワールド》のゆえんだ。

2012/06/15(金)(村田真)

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