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三浦徹コレクション 生誕100周年記念 あるがままに生きた画家 タカハシノブオ 叫ぶ原色・ものがたる黒

2014年12月01日号

会期:2014/09/23~2014/11/24

BBプラザ美術館[兵庫県]

本展を見たのは偶然である。ある仕事のために神戸を訪れ、予定より早く着いたものだから、暇つぶしのつもりで美術館に入ったのだ。タカハシノブオ(1914~1994)のことなどまったく知らなかった。彼は波乱の人生を歩んだ画家だった。2度の従軍、妻の死、生活苦ゆえの幼い娘との離別……。その後、高度成長期の神戸の片隅で、肉体労働をしながら一心不乱に描き続けたのだ。タカハシの作品は具象を基本としているが、なかには抽象化してしまったものもある。画面を覆う黒と、暗闇のなかで輝くような彩色が特徴だ。絵の特徴を一言でいうと「ハングリー」に尽きる。満たされぬ思い、ままならぬ生活、底辺から見た社会、愛し愛されることへの飢え、それら諸々の感情が画面に塗り込まれ、ギラギラとした迫力で見る者に迫るのだ。また、彼は詩作も行なっており、118点の絵画と共に10点の詩が出品されていた。こちらも絵画と同様の魅力を持つことを付記しておく。無名のまま没した画家が、20年の時を経て適正な評価を受ける時がやって来た。その第一歩となる機会に、偶然とはいえ立ち会えたことを幸運に思う。

2014/10/26(日)(小吹隆文)

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