artscapeレビュー

プレビュー:村川拓也『エヴェレットゴーストラインズ』4バージョン連続上演

2015年06月15日号

会期:2015/07/10~2015/07/12

京都芸術センター[京都府]

KYOTO EXPERIMENT 2014 にて上演された村川拓也の演劇作品『エヴェレットゴーストラインズ』のコンセプトを引き継ぎつつ、新たにつくられた4つのバージョンを連続上演する試み。
「出演者未定の演劇作品」である『エヴェレットゴーストラインズ』の基本コンセプトは、「演出家が出演者候補に前もって手紙を送る」「手紙には、劇場を訪れる時間と観客の前で行なう行為が指示されている」「当日劇場に来るかどうかは受け取った人が決める」というもの。ある一定の上演時間と舞台空間を設定し、入退場時のハケ方と舞台上で行なう行為を指定すること。村川は、演劇の構造的原理を「時空間の共有と行為の指示」へと還元し、裸形にして差し出しつつも、「手紙」という間接的な伝達手段やコントロールの放棄によって、再現(再演)不可能な一回性の出来事へと近づけていく。要請に応じた出演者たちが舞台上に現われる時間と現われない不在の時間が交錯し、上演ごとに揺らぎを伴った不確定性へと開かれていく。
さらに、今回の4バージョン連続上演の試みでは、Ver.A「赤紙」(初演時の出演者が手紙を別の人に渡し、受け取った人はさらに別の人に渡す)、Ver.B「顔」(ある死の記憶を共有する特定のグループ数名の出演者達による上演。一人につき何枚かの指示が配られるが、どの指示に従うかは当人次第)、Ver.C「記録」(記録にまつわる作業集団 “ARCHIVES PAY” との共同制作。あらゆる記録装置を舞台に持ち込み、現場の一回性とその記録によって生まれるもう一つの時間軸を内包させたまま上演が展開する)、Ver.D「集団」(ティッシュ配りの要領で、街に出て大量の手紙を不特定多数の人々に配る。もっとも不確定要素の強いバージョン)が予定されている。
新たな、そして複数の条件づけによって、観客はどのような出来事を体験するのか(あるいは体験できないのか)。スリリングな期待を抱かせるとともに、「参加」を要請する枠組みや従う/従わないの判断を巡って、「作品」に対する責任の所在やある種の権力関係についても考えさせる上演になるだろう。

2015/05/31(日)(高嶋慈)

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