artscapeレビュー

菱沼勇夫「LET ME OUT」

2015年06月15日号

会期:2015/05/20~2015/05/30

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

2015年3月から4月にかけて、TOTEMPOLE PHOTO GALLERYで「彼者誰」、「Kage」の連続展を開催したばかりの菱沼勇夫が、今度はZEN FOTO GALLERYで「LET ME OUT」展を開催した。こちらは2010~13年に撮影・制作された6×6判、カラーのシリーズで、今回はその中から16点をセレクトして展示している。
セルフポートレート及び身近な人物たちと思われるポートレート(ヌードが多い)が中心だが、そこに奇妙なオブジェの写真が混在している。バナナと土器と包丁の組み合わせ、狼、アヒル、鴉などの剥製、吊り下げられた馬の首(本物だそうだ)、赤い布に梱包されたマネキン人形などだ。それらの写真が、互いに衝突し合って不協和音を生み出すことで、シリーズ全体に不穏な空気感が漂っている。実家の福島県郡山近辺で撮影された写真が多いようだが、東北地方の冷え冷えとした風土が、作品の背景としてうまく効いていると思う。
とはいえ、まだ彼が何を求め、どんな方向に作品全体を進めようとしているのか、やや断片的過ぎてうまく見えてこないのも確かだ。仮面のようなものを身につけている写真も多いのだが、その意味づけもまだ曖昧な気がする。撮り進めていく中で、衝動や思いつきだけに頼るのではなく、もっと論理的な構築力を発揮できるようになるといいと思う。いいシリーズに成長していく可能性を充分に感じるだけに、あとひと頑張りを期待したい。なお、展覧会にあわせて、ZEN FOTO GALLERYから同名の写真集が刊行されている。

2015/05/20(水)(飯沢耕太郎)

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