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artscapeレビュー

Dance Fanfare Kyoto 03 『Don't look back in anger. Don't be long 時化た顔で振り向くな、早くおうちに帰っておいで』

2015年06月15日号

会期:2015/05/30~2015/05/31

元・立誠小学校[京都府]

関西の若手ダンサーと制作者による実験的な企画を通して、関西ダンスシーンの活性化をはかるDance Fanfare Kyotoが、今年で3年目を迎えた。特徴のひとつとして、演劇、音楽、美術などダンス以外の領域の表現者とのコラボレーションに積極的なことが挙げられ、本作はPROGRAM 02「美術×ダンス」として上演された。
それぞれ卓球台とバスケットゴール板に見立てられた、水平と垂直の2枚のキャンバス。2人のペインター(鬣恒太郎、神馬啓佑)がライブペインティングを行なうなか、男女のダンサー(倉田翠、渡邉尚)が水平に置かれたキャンバス上でデュオを展開していく。ペインターとダンサーは水平の台=キャンバスという空間を共有しつつも、描画とデュオの振付はそれぞれ独立した行為として行なわれる。ペインターが青い絵具を塗る。無関係に動くダンサーの手足、胴体、頭が塗られた面を多方向に展開していく。白い絵具が置かれる。ダンサーの滑った手足の軌跡が新たな線を生成させていく。
絵画におけるストロークは画家の身体の痕跡であり、とりわけ抽象絵画と身体性の関係はひとつのトピックを成してきた。本作において、水平に置かれたキャンバス上で描画行為が行なわれることも、ポロックや白髪一雄のペインティングへの参照を示している。ただしそこに、ダンサーという他者の身体を招き入れることで、身体の痕跡は二重化される。ペインターの描いた線は、ダンサーの身体とキャンバスの接触によってその都度引き直され、一方でダンサーの身体は絵具=物質によって滑ってしまい、振付けられた動きを完全に制御できなくなる。
このように本作では、ペインターとダンサーがお互いに干渉し合うことで、予測不可能な生成のダイナミズムがより増幅される。さらに第三項として、「スポーツ」の要素が投入されていた。キャンバス=卓球台/バスケットゴール板への見立てのみならず、体操着を着た出演者たちによって実際のプレイも行なわれるのだ。バスケットボールやピンポン球の動きがダンサー/ペインターの動きを誘発・撹拌するという作用は面白いが、「スポーツ」である演出の必然性がどこまであるのかがやや不透明だった。むしろ、スリリングで目を惹かれたのは、倉田と渡邉のデュオである。相手の体を手足で支え、物体のように動かそうとする。動く/動かされるベクトルや主導権が絶えず入れ替わる緊張感。限られたスペースで横たえた体を密着させてはいるが、アクロバティックな硬質さを感じさせるなかに、次第に絵具でまみれていく様子がふとエロティックに見えてしまう。そうした相反する要素を醸し出しながら、強い意志に満ちた身体があった。


「Don’t look back in anger. Don’t be long」 撮影:Yuki Moriya


ホームページ:URL:http://dancefanfarekyoto.info/

2015/05/30(土)(高嶋慈)

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