artscapeレビュー

小野耕石展「版表現を切り開く者」

2015年11月15日号

会期:2015/10/17~2015/11/15

ギャラリーあしやシューレ[兵庫県]

一見すると、モアレに覆われたような抽象的な色面が広がっているが、その前を横切ると、見えなかった色彩が次々と現われ、視点の移動とともに刻一刻と表情が変化する。オパールや玉虫色のように、光の反射や屈折によって複雑に千変万化する表面は、きらめく海面や暮れてゆく夕暮れ空、蝶の翅へと変貌していく。小野耕石の《Hundred Layers of Colors》は、その名の通り、100層以上もシルクスクリーンを刷り重ねることでつくられている。近寄って見ると、1cmほどの極小の突起が画面に規則正しく並んでいることがわかる。一つひとつの突起を横から見ると、インクの層を無数に刷り重ねた色の柱になっている。したがって、視点を移動させながら見ることで、真正面からは見えなかったさまざまな色が、角度によって現われては消え、幻惑的に色彩が移り変わる表面を生み出しているのだ。
「版画は、インクの物質的な層の堆積である」ことに自覚的に取り組みつつ、2次元と3次元の往還、視点の移動による表面の複数性に言及する小野の試みが、今後どう発展していくのか期待したい。

2015/10/30(金)(高嶋慈)

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