2024年03月01日号
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artscapeレビュー

生誕200年記念 伊豆の長八

2015年11月15日号

会期:2015/09/05~2015/10/18

武蔵野市吉祥寺美術館[東京都]

幕末・維新を生きた伊豆松崎の鏝絵師、長八の展覧会。伊豆の長八といえば石山修武が設計した松崎町の美術館が有名だが、作品は基本的に建築の装飾だから動かせなかったり、動かせるものでも漆喰のため壊れやすかったり、いやそれよりなによりキワモノ扱いされてるから紹介される機会がほとんどなかった。ぼくももう30年近く前に長八美術館に行ったけど、型破りな美術館建築にばかり目を奪われ、肝腎の作品のほうはなんかキッチュだなあという記憶しかない。だいたい漆喰芸術を見せる美術館に、アヴァンギャルドな漆喰建築をぶつけてくるってどうなの? いま考えれば建築のほうこそキッチュだったかも。今回あらためて作品を見て、いやあユニークなもんですなあ。出品作品の多くはあらかじめ漆喰のレリーフとしてタブロー状につくられたものだが、そんなに需要があったのか。大半は横長なので、飾るとしたら障子や襖の上の漆喰壁に飾っていたはずで、どこか屋上屋を架すおかしさがある。もっとも西洋建築に油絵を飾るのも同じことだが。題材は富士山をはじめ風景が多いが、人物や動植物、仏画、物語絵もある。すごいのは《漣の屏風》で、漆喰全面に鏝で水平に何百条もの筋を入れたもの。これは技術習得のために制作したものらしいが、この無数の筋がたまたま漣(さざなみ)に見えるから二曲一双の屏風仕立てにしたのか、それとも最初から売ることを見込んで作品化したのか。いずれにせよ、福田平八郎の《漣》より半世紀以上も前、モンドリアンの《コンポジション》より40年も前にこんな抽象レリーフを残していたとは。

2015/10/06(火)(村田真)

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