artscapeレビュー
甲斐啓二郎「骨の髄」
2015年11月15日号
会期:2015/09/29~2015/10/11
フットボールの起源となる球技を、イングランド中北部の街で撮影した「Shrove Tuesday」(2013年)、各地の火祭りの行事を撮影した「手負いの熊」(2014年)と、甲斐啓二郎は人間たちが身体をぶつけあう行為が、祭儀と結びついていくプロセスを、写真を通じて探り直そうとしてきた。その延長上に、今回のTOTEM POLE PHOTO GALLERYでの展示「骨の髄」も位置づけられると思う。
今回、甲斐が取材したのは、秋田県美郷町六郷の「カマクラ」(酒樽を作る青竹で打ち合う)、三重県津市の「ざるやぶり」(蕎麦の入ったざるを奪い合う)、兵庫県高砂市の曽根天満宮の「竹割り」(青竹を地面に叩き付けて割る)の三つの行事。どれも、成長が早く、青々とまっすぐに伸びて、中身が中空のため、清浄な植物とされてきた竹を使った祭礼である。竹の聖性が浄めの行為を呼び起こし、それが参加者の闘争本能に火をつけて次第にエスカレートしていく様が、これまでと同様に、余分な説明的要素をカットした写真群によって力強く提示されている。ただ、3作品とも被写体の捉え方、距離感がほぼ同じで、スタイルとして固定されてきているのがやや気になる。テーマ設定にはまったく破綻がなく、より多様な方向に広がっていく可能性を感じるが、そろそろ違ったアプローチの仕方も必要になってくるのではないだろうか。また民俗学、人類学的な知見を、作品にどこまで、どのように盛り込んでいくのか、写真とテキストとの関係についても一考の余地がありそうだ。
2015/10/06(火)(飯沢耕太郎)