artscapeレビュー

石川竜一「考えたときには、もう目の前にはない」

2016年03月15日号

会期:2016/01/30~2016/02/21

横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1[神奈川県]

1984年、沖縄出身の石川竜一は、いま最も期待が大きい若手写真家の一人といえるだろう。2015年に『絶景のポリフォニー』(赤々舎、2014)、『okinawan portraits 2010-2012』(同)で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞し、抜群の身体能力を活かしたスナップ、ポートレートで新風を吹き込んだ。今回の横浜市民ギャラリーあざみ野での個展では、二つのシリーズだけでなく、その前後の作品も合わせて展示してあり、彼の作品世界の広がりと伸びしろの大きさを確認することができた。
最初のパートに展示されていた「脳みそポートレイト」(2006~08)と「ryu-graph」(2008~09)が相当に面白い。スナップやポートレートを撮影しはじめる前に制作された実験作で、「脳みそポートレイト」では、クローズアップされた身体の一部の画像をコラージュして、ぬめぬめとした奇妙な生きものの姿を造り上げている。「ryu-graph」は「印画紙上に直接溶剤を使用しながら形態をイメージ化した」抽象作品である。彼の中にうごめいていたコントロールできない衝動を、そのまま形にしていったとおぼしき写真群で、それが『絶景のポリフォニー』や『okinawan portraits 2010-2012』で解放され、「写真」として秩序づけられていったプロセスがよく見えてきた。近作の「CAMP」(2015)にも瞠目させられた(SLANTから写真集としても刊行)。最小の装備で山の中に入り、現地で食物を確保していくサバイバル登山家とともにキャンプしながら、石川県、秋田県の山中で撮影されたシリーズで、壮絶な美しさを発する自然環境の細部が、震えつつ立ち上がってくる。都市を舞台に撮影を続けてきた石川の新境地というべき作品群で、今後の展開が大いに期待できそうだ。
なお、本展は「あざみ野フォト・アニュアル」の一環として開催されたもので、展示室2では「『自然の鉛筆』を読む」展が開催されていた。「世界最初の写真集」であるイギリスのウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの『自然の鉛筆』(The Pencil of Nature,1844-46)の収録作品に、横浜市所蔵の写真・カメラコレクション(「ネイラー・コレクション」)からの約100点を加えて、19世紀以後の写真表現を辿り直そうとしている。ちょうど『自然の鉛筆』の日本語版(赤々舎)が刊行されたばかりというタイミングでもあり、時宜を得た好企画といえるだろう。

2016/02/19(金)(飯沢耕太郎)

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