artscapeレビュー

吉岡千尋「skannata──模写」

2016年03月15日号

会期:2016/02/09~2016/02/21

アートスペース虹[京都府]

本個展では、イタリア旅行の際に撮影した教会のフレスコ画やテンペラ画の一部を模写し、さらにスケールを拡大して模写を重ねた絵画作品が発表されている。小文字で《mimesis》と題された、ほぼ同寸の小さなテンペラ画と、大文字で《MIMESIS》と題された、拡大バージョンの油彩画。同じイメージから派生した大小2枚の絵画が、壁に並べて掛けられる。《mimesis》では、人物の頭部はフレームからカットされ、画家の関心は布地の襞や金箔の装飾へと向かっている。実際に金箔を貼った上にテンペラ絵具で描き、絵具の層をこそげ取って金箔を露出させた部分を金属棒で叩いて凸凹の表情をつける。光を反射して輝く凸凹の表面は、布地に施された金糸の刺繍のように立体的に浮き上がって見える。一方、大文字の《MIMESIS》では、《mimesis》の一部分をさらに拡大させることで、画面は身体の輪郭や物語性を失って装飾模様で覆われ、半ば抽象的なものへと変容する。こちらは、アルミの粉を混ぜた銀色の地の上に油彩で描かれているが、塗り残された地の一部が、光の当たり方によって白く輝いたり、暗く沈んで見える。光の反射と物質性との往還。そこに薄く透けて見える、「拡大」する際に用いたグリッドの線。見る角度によって変化する銀の上に、軽く浮くような筆致で描かれた絵画は、硬質さと柔らかさが同居し、脆く壊れそうな儚い美しさをたたえている。
吉岡はこれまでも、小説の克明な描写から想像した建築物を絵画化するなど、写真や言葉によって情報として媒介されたイメージを、さらに模写するという手法を採ってきた。同一イメージの変奏曲のようなその手法は、イメージの同一性やイメージと記憶・認識という問題とともに、フレーミング、グリッド構造、模様やパターンの反復、レイヤーの出現、塗り残しによる「地」の問題、反射と物質性、ハッチングによる陰影法など、「絵画」をめぐるさまざまな問題が、揺らめきながら多層的に立ちのぼっている。その揺らぎを伴った豊かさが、吉岡の絵画をいつまでも立ち去りがたい魅力的なものにしているのだ。

2016/02/17(水)(高嶋慈)

2016年03月15日号の
artscapeレビュー