artscapeレビュー
杉浦邦恵「Little Families; 自然への凝視 1992-2001年」
2016年03月15日号
会期:2016/01/30~2016/02/27
タカ・イシイギャラリー東京[東京都]
杉浦邦恵はシカゴ美術館付属美術大学でケネス・ジョセフソンに師事し、1967年に同大学を卒業後、ニューヨークに移って、当地で作品制作を続けているアーティスト/写真家である。近年は主にフォトグラム作品を制作しているが、今回のタカ・イシイギャラリー東京での個展では、そのなかから生きものをテーマにした作品を展示した。
フォトグラムはいうまでもなく、印画紙上にモノを配置し、光を当ててその輪郭を定着する技法だが、そのモチーフとして生きものが使われることはほとんどない。だが、杉浦は主にコントロール不可能な動物や人間を被写体にしていて、そのことが彼女のフォトグラム作品に、偶発的に生み出された陰翳や形がもたらす、軽やかな律動感を与えている。例えば、今回展示された「The Kitten Papers(子猫の書類)」(タイトルが素晴らしい)では、「暗室の感光紙の上に一晩中ほっておかれた」二匹の子猫の動きの軌跡を、繊細なモノトーンの画面に定着した。ほかに、蝸牛をモチーフにした「Snails」、蛙をジャンプさせた「Hoppings(飛び跳ねる)」など、身近な、小さな「自然」のありようを見つめることで、そこから驚きや感動をともなうイメージをつかみ取ろうとする姿勢は、どこか俳句のようでもある。19世紀以来の伝統的手法であるフォトグラムは、まださまざまな方向に伸び広がって行く可能性を秘めているのではないだろうか。
2016/02/26(金)(飯沢耕太郎)