artscapeレビュー

第19回 文化庁メディア芸術祭

2016年03月15日号

会期:2016/02/03~2016/02/14

国立新美術館[東京都]

いつものように漫然と会場を一周してみたが、いい悪いはともかく「おっ!」と引っかかる作品が少ない。まあそれもいつものことだが、今年はとくに少なく感じる。そのなかでひとつだけよくも悪くも引っかかった作品が、アート部門で優秀賞を獲った長谷川愛の《(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合》だ。通常同性カップルでは子供はできないが、ふたりの遺伝情報を調べて掛け合わせればヴァーチャルな子供はできる。ここでは女性同士のカップルがそれぞれの遺伝データを組み合わせ、子供ふたり(つまりふたつの可能性)をつくるという映像。だが、彼女たちによく似たヴァーチャル・チルドレンを見て一瞬気持ち悪くなってしまった。もしこれが「アート」ではなく現実だとしたらおぞましいこと。同性カップルにとって子供がほしいというのは切実な願望かもしれないが、それは自然の摂理に反することであり、生理的に受け入れられない。でもそれを「アート」としてシミュレーションしてみるのは許されるし、むしろどんどんやってみるべきだと思う。つまりアートは、例えば戦争や災害、表現の抑圧といった現実に起きたらマズイ社会的問題を、あらかじめシミュレーションして世に問うことができるメディアなわけだ。たぶんメディア・アートの役割のひとつはそんなところにあるんだろうね。

2016/02/07(日)(村田真)

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