artscapeレビュー

What Price Your Dance ダンスと仕事とお金についてのおもろい話とパフォーマンス

2016年03月15日号

会期:2016/02/14~2016/02/15

Art Theater dB Kobe[兵庫県]

川口隆夫、砂連尾理、カンボジアの古典舞踊手のポン・ソップヒープ、マレーシアの古典舞踊手のナイム・シャラザード。国籍、年齢、セクシャリティ、ダンスの経歴、受けた教育、文化的背景もそれぞれ異なる4人のダンサーが、「アジアにおけるアートのための労働とダンスの経済」について言葉と身体による対話を行なう、レクチャー・パフォーマンスである。
冒頭ではまず、「あなたの生計を教えてください」という質問が英語でなされる。非常勤講師とダンス公演とワークショップと答える砂連尾、古典舞踊の教師と音楽のバイトだと言うソップヒープ、翻訳業と舞台公演が半々を占めると言う川口、舞踊団からのギャラで生計を立てていると言うシャラザード。4人の答えはバラバラだ。続けて、「あなたの手、足、胴体で何か見せてください」という質問と、それぞれの身体部位の「値段」が質問される。「値段は付けられない」と言う者、手羽先やスペアリブと比較して冗談交じりに答える者。だが、上半身をはだけた年若いシャラザードが、傍らの川口に「How much?」と問いかけるとき、臓器売買や売買春とのきわどい交差の中に、観客=ダンサーの身体を「見る権利」を買っている存在であることが仄めかされる。
続くシーンでは、「これまでのダンスで得た総額」「月収と支出の内訳」「公演制作費、ギャラの時給換算」「ダンス教育にかかった時間の総計」といった経済、労働に関する質問がなされる。それは、ダンサーの置かれた経済的状況について、「表現、身体、文化的支援、資本主義」に関する問いを投げかける。しかし、「お金」と「時間」と「(身体)資本」という資本主義経済の単位に還元してダンスの価値を測ろうとすればするほど、そこからはみ出さざるをえない豊かな剰余の部分が際立ってくる。それは、ダンス/ダンス以外でのさまざまな差異をもった出演者どうしが、身体的な交流のなかから動きを即興的に立ち上げていくシーンである。砂連尾とソップヒープは、合気道と古典舞踊を互いに教え合う。コンテンポラリー・ダンスに関心をもつシャラザードは、川口に「最初の振付作品を見せて」と頼み、振り写しのなかから即興的な動きが触発されていく。相手の動きを受け取って、どんどん次の動きを生み出していく、緩やかな連鎖反応。一方、砂連尾とソップヒープは、「2人の掌の間に見えないボールがある。その感覚をキープしたまま、空間をゆっくり広げていく」というワークを始め、見えない糸の繋がりが、空間的に隔たった2人の身体を動かしていく。
一方で、ソップヒープが見せるソロは、「ダンスとグローバリゼ─ション」という問題を提起する。彼は、持ち役の「猿の踊り」を力強く披露するが、この役には肉体の俊敏さや若さが求められるため、舞踊団では年齢的にもう踊れないと言う。「カンボジアにコンテンポラリー・ダンスが入ってきたのは2005年頃とまだ新しいが、自分にとってコンテンポラリー・ダンスは貴重な収入源だ」と話す。そして、古典舞踊のテクニックや培われた身体の強靭さをベースに、「砂連尾と一緒に作っている」と言う新しい作品の一部を披露する。それは、古典舞踊の動きや身体観と融合した「新しいダンス」を生み出すのだろうか。それともグローバルな市場においては、古典舞踊のエッセンスは商品価値を高める差異に過ぎず、「新たな商品」として消費の対象になるのだろうか。

2016/02/15(月)(高嶋慈)

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