artscapeレビュー

試写『もしも建物が話せたら』

2016年03月15日号

この奇妙なタイトルの映画は、ヴィム・ヴェンダース監督が総指揮をとり、ヴェンダースを含め6人の監督に建物を主役にした映画を撮ってもらったオムニバス・ドキュメンタリー。ヴェンダースはベルリンのフィルハーモニー、ミハエル・グラウガーはサンクトペテルブルクのロシア国立図書館、マイケル・マドセンはノルウェイのハルデン刑務所、ロバート・レッドフォードはサンディエゴのソーク研究所、マルグレート・オリンはオスロのオペラハウス、カリム・アイノズはパリのポンピドゥー・センターを選択。基本的にそれぞれの建物がみずからについて独白するという趣向だ。どの映像も、というよりどの建築も興味深いが、とくにルイス・カーン設計のソーク研究所は四角い箱を並べた無機的なモダニズム建築に見えるのに、ここで働いた人はだれも辞めたがらないという。なにがそんなに惹きつけるのか、その空間的魅力が画面から十分に伝わってこないけれど、行ってみたいと思わせる映像ではある。逆に18世紀末に建てられたロシア国立図書館は、いかにもヨーロッパの歴史的図書館の趣を残した建築だけど、建築そのものよりおびただしい量の本が織りなす特有のアウラに圧倒される。「薔薇の名前」がそうだったように、図書館を主役にした映画はもうそれだけで引き込まれてしまう。ひとり30分足らずの短編集だが、6本あるので3時間近くになり、ちょっとツライ。単に長いというだけでなく、建物が動かない分カメラが移動するため、見るほうも動いた気分になって疲れるのかもしれない。


映画『もしも建物が話せたら』予告編

2016/02/04(木)(村田真)

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