artscapeレビュー
第20回亀倉雄策賞受賞記念「中村至男展2018」
2018年04月15日号
会期:2018/04/06~2018/05/16
クリエイションギャラリーG8[東京都]
第20回亀倉雄策賞がグラフィックデザイナーの中村至男に贈られた。これは故・亀倉雄策の生前の業績をたたえた賞で、公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が運営と選考を行なっている。同協会が毎年、発行している年鑑『Graphic Design in Japan』出品作品のなかから、もっとも優れた作品とその制作者に贈られる。日本のグラフィックデザイン界でとても名誉ある賞と言っていい。
本展はその受賞記念展である。受賞作品は、昨年初めに開いた自身の個展「中村至男展」の告知・出品ポスターとしてつくられた題名「BIRTHDAY」をはじめとする一連の作品群で、奇しくもその個展の会場は本展と同じ会場であった。したがって、中村は2年続けて同じ場所で個展を開くことになったのである。「BIRTHDAY」のうち1点はバースデーケーキのカットシーンが描かれたグラフィックなのだが、ケーキのみならず、ロウソクや炎までもが半分にカットされたユーモラスな一面を見せている。もう1点は両親が赤ん坊を抱いている様子が描かれたグラフィックで、記号的に描かれたお父さんの眉毛から子どもの眉毛へ、同じくお母さんの目から子どもの目へ……と、そこには何本もの矢印が引っ張られており、遺伝を一目瞭然に伝えている。これらは「テクノロジー寄りのものではなく、非常に人間的な、ナイーブさを持つ“新しさ”がある」などと評された。
これまでの作品や仕事を通して見ると、中村はミニマルな線とフラットな色面構成を得意とするグラフィックデザイナーのようだ。それによって独特の世界観が生まれており、非常に明快で、メッセージを伝える力が強いと感じた。本展で展示された新作は、何点にもわたる一連のグラフィック作品で、跳ね上った2枚のトーストから真っ二つにカットされたりんごへ、さらに双子の女の子たちへ、冷蔵庫から冷蔵庫と同じ輪郭をした人間の体内へ、スーツケースからスーツケースと同じ輪郭をした飛行機の窓へなどと続く。まるで連想ゲームかしりとり、漫画のような感覚で、これらの作品を連続して観ていくうちに、さまざまな想像を掻き立てられていった。文字が一切ないグラフィックだけで、観る者をこれだけわくわくさせられるとは、その底力に唸るばかりである。
公式ページ:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/201804/201804.html
2018/04/06(杉江あこ)